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あやしい求人広告、応募したらこうなった。 人気バイトの裏側「実体験」ルポ
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ルポ・エッセイ
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「トイレ掃除」は男子禁制だった

『あやしい求人広告、応募したらこうなった。 人気バイトの裏側「実体験」ルポ』
[著]多田文明 [発行]イースト・プレス


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 不合格続きに嫌気がさして、とにかく採用されたいと思っていたら、清掃業務の募集を見つけた。掃除するだけなら、それほど難しいスキルも要求されないため。すぐに作業できるアルバイトではないのか。いろいろな募集を何社受けてもまったく受からず、相当落ち込んでいた私は、次は「受かりそう」なことを最重要視していた。現在の仕事状況から、週2~3回なら充分にスケジュールに組み込める。


 最初に目をつけたのは、「S区駅前の清掃業務」と「新宿二丁目のビルの早朝清掃」の二つである。どちらも、週2回の作業だ。


 まずS区駅前の清掃業務の募集要項には、「トイレ業務あり。初心者でもしっかりと教えます」とある。他人が敬遠しそうなトイレ掃除なら、競争率は低いのではないだろうか? 急いで私は求人先に電話をかけた。


 すると、中年らしき女性が応対に出た。

「S区駅前の清掃の求人を見たのですが」


 すると、おばさんはいきなり、

「ここは、女性用公衆トイレの掃除があるので、男性の応募はお断りしています!」


 ガチャン! わずか、数秒で電話を切られてしまった。


 求人情報を見たが、男性がダメとは書いていない。それにしても、気合いを入れて求人先に電話をしたにもかかわらず、一方的に切られると、さすがに心が折れる。しかし、こんなことで(くじ)けているわけにはいかない。


 私は再度、求職への気持ちを奮い立たせて、新宿二丁目のビル清掃に電話をすることにした。ここでの作業は土日で、しかも時給は1000円以上。一般の清掃は、800円前後が相場なので、比較的高い金額だ。


 電話をかけると、ここでも中年の女性が対応した。

「求人広告を見て、電話をしたのですが」


 そう伝えると、逆に質問された。

「どちらの業務でしょうか?」


 この会社では、かなりの数の清掃業務を手掛けているようだ。

「新宿二丁目のビル清掃なんですが」

「ああ、こちらですか。ここの掃除は、廊下、給湯室……」


 女性は、求人募集している業務内容を見ているようで、しばらく電話の向こうで独り言が続いた。

「ここには、ビル内の女性トイレの清掃もあるようですね」

「えっ!」


 求人広告の業務内容を見ると、確かに「トイレ清掃あり」と小さく書かれている。

「申し訳ありませんが、男性の方のご応募はお断りしています」


 またもや“トイレの壁”に阻まれてしまった。ここでようやくわかったのは、求人に“トイレ清掃”とある場合、男性は女性トイレの清掃をすることができないため、基本的に応募はNGという意味なのだった。


 今度は、募集要項にトイレ清掃と書かれていないところを探した。すると、ハローワークのホームページで「S区内のマンション清掃者募集」の記事を見つけた。現在のハローワークの求人情報は、自宅のパソコンからでも募集内容を見ることができる。

「おぉっ! これは私の家から自転車で10分ほどではないか」


 マンションの清掃ならば、トイレ清掃などはまずないだろう。週2回の早朝清掃で時給は900円。先ほどの清掃業務より若干安いものの、仕事先が自宅から近いことは大きなメリットだ。善は急げ! とばかり、私はすぐに連絡した。


 物腰の柔らかそうな声の男性が電話に出て、「過去に清掃経験はありますか?」など、いろいろと尋ねられた。これまで門前払いが続いていただけに、いろんな質問をされるのは、かえって嬉しい気分になる。

「清掃経験はありませんが……頑張ります!」


 私は元気よく答えた。

「そうですか。ところで、現在、おいくつですか?」

「今年で45歳になります」


 それを聞いた男性は驚嘆の声を上げた。

「若い!」


 こうした清掃に応募してくる年齢層は極めて高いのだろう。男性の声が急に弾み出した。もしかして、40代の私は“清掃業界の若手ホープ”なのかもしれない。

「ぜひ、応募してください! そのとき、ハローワークの紹介状も忘れずに一緒に送ってください」


 しかし、今電話をかけているのは、金曜日の夕方。これからハローワークに行って、紹介状をもらっている時間はない。

「実は、家のパソコンから検索して求人を見つけたんです。これからハローワークに行って紹介状をもらっている時間はありません。今すぐにでも御社の仕事をしたいので、これから履歴書と職務経歴書を送ってもよろしいでしょうか!」


 私はやる気を前面に出した。男性はその言葉を聞いて、「わかりました。紹介状なしで構いませんので、すぐに送ってください」と答える。これまでにない好感触である!


 電話を切ると、速攻で履歴書を送付した。


 しかし……この性急な行動があだになった。履歴書を郵送したあと、もう一度求人内容をじっくり見てみた。すると、私の家の近くのAマンションのほかに、もうひとつBマンションの名が書いてある。もしかして、2カ所の作業をやらなくてはならないのか!?


 何度も求人広告を読み返したが、やはりBマンションでの作業も週3回やらなければならないようだ。ということは、自宅近くのAマンションの作業と合わせ、週5回になる。それでは、ほかにも仕事をかけもちしている私には、どう考えても無理。私は自分のズボラさを恨んだ。


 翌週の月曜日、清掃会社から電話があった。私のやる気をくみ取ってくれたのだろう。すぐに面接をという話になった。しかし、私は求人情報を見間違っていたことを告げた。

「週5回は難しいので、Aマンションだけでの作業というわけにはいかないでしょうか!」


 必死に頼み込んだ。しかし、もう1カ所のBマンションにも同時に行ってもらわなければダメだとのつれない答え。やむなく、応募を辞退せざるをえない結果に終わってしまった。


 採用側の「若い!」の一言に舞い上がってしまって、求人情報をよく読んでから応募するという当たり前のことを忘れてしまったのが、失敗の原因である。


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