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歴史通は人間通
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まえがき

『歴史通は人間通』
[著]渡部昇一 [発行]扶桑社


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 今から五十七年前の昭和三十一年(一九五六)、当時二十六歳の私は西ドイツのミュンスター大学に留学中であった。そこに郷里から『文藝春秋』の三月号が送られてきた。そこに亀井勝一郎(かついちろう)の『昭和史』(岩波新書・昭和三十年)の書評が掲載されていた。この本の著者は遠山茂樹・今井清一・藤原彰の三氏である。当時の岩波新書の権威はすこぶる高かった。何しろ「岩波新書」は戦前の赤色版以来の輝かしい伝統を持っており、まだ他社からの新書もあまりない時代だったのである。これに対する亀井の批判が手厳しかった。当時、岩波新書にそんな酷評(こくひょう)を書く人はいなかったと思う。たとえば、
「……『昭和史』を読んで、その悪文に閉口した……漢字のものすごい量といふ点から云へば、或る種の裁判記録に似てゐる。つまり典型的な官僚文章である……」

 これは表現力の問題だが、更に本質的な批判が続く。
「読み終つてまづふしぎに思つたことは、この歴史には人間がゐないといふことである…」

 更に、
「要するに歴史家としての能力が、ほゞ完全と云つていゝほど無い人々によつて、歴史がどの程度に死ぬか、無味乾燥なものになるか、一つの見本として『昭和史』を考へてよい。」(講談社『亀井勝一郎全集』第十六巻一九〇〜一九五ページ)

 これを読んだのが異郷にいた時であり、青年の時だったので深い印象を受け、同感し、快哉(かいさい)をひとりで(さけ)んだ記憶がある。

 そもそも子供の時の読書体験が、講談社の「少年講談」のシリーズに始まり、吉川英治の『太閤記』や『三国志』や鶴見祐輔の伝記物に熱中したのがそのまま続いていたので、私にとって歴史とは人間が踊り、そこに事件が展開してゆくものであった。それが戦後の歴史書では社会や経済条件のみ重んじられて、亀井が言うように「人間不在」になっていることに不満であったので、亀井の文章に心から同感したのである。

 その後、私はいつの間にか歴史を書くようになった。その時、いつも頭の底には、若いころドイツで読んだ亀井の言葉があったと思う。それで私は、歴史や人物を書く時は、軍談師か講談師のようであろうと心掛けてきた。今日では基礎的な資料が整えられているのが一般であるから、基礎的事実には嘘がないように心掛けるが、登場する人物に興味を向けるのが中心になった。歴史と人物論が一緒になったものを語りたかったのである。語り方としては私の愛読書中の愛読書であるチェスタトンにあやかりたいとは思っているが、彼のようにすばらしい逆説に至らないことは残念ではあるが、才能の差は仕方ない。

 こんな気持ちで、いろいろ書いたものの中から、大越昌宏氏が拾い出して編集して下さったのが本書である。読者として、またすぐれた編集者としての大越さんの目にとまった章節ばかりであるので、これを読まれる方にも何程かの愉悦と人生のヒントを与えてくれるのではないかと期待している次第である。


  平成二十五年六月  
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