私の住所などが悪事を暴きだすルポライターとして、悪質業者に知れ渡っているのだろうか。最近、あまり私のところにダイレクトメールや勧誘電話がこなくなった。それで情報収集のために知人から、さまざまな勧誘チラシをもらう日々が続いている。
先日もある“水”のチラシをもらった。写真を見る限り、小ビンに詰められた、ただの水にしか見えないが、1セット2本で1万円ほどもする。この水には、ある外国の霊能師のパワーが注入されているので、これを飲むことですべての悩みが解決できるというのだ。ここには、この水を飲んだところ「アルコール中毒で暴力的だった旦那が改心した」「アトピーが治り、彼氏をゲットできた」などの奇跡的な体験談が綴られている。
最近、テニスのやりすぎで、右手・右腕の血の巡りが悪い。もしこの水に本当に奇跡をもたらすパワーがあるのならば、この腕も良くなるはずだ。
「在庫がありませんでした」
私がこの水を注文するために電話をかけると、若い女性の声で「ありがとうございます。何セットのご注文になりますか?」と尋ねてきた。
「そうですねえ。1セットでお願いできますか。ところで、広告には限定品とありますが、まだ在庫はありますでしょうか?」
「はい、大丈夫です」と女性は自信を持って答える。
「最近、腕の調子がおかしいのだけれど、これにも効果がありますかね」
「はい。もちろんです」
そして私は自分の連絡先などを告げて注文した。
「それでは商品到着後、飲み方などについて、担当者からお電話を差し上げて、それに沿ってご使用いただくことになります」
私は「わかりました」と電話を切った。
それから20分後、この業者から電話がきた。何か、注文に不備があったのであろうか?
男性の声で「ご注文いただき、ありがとうございました。大変申し訳ありませんが、確認したところ、在庫がありませんでした。入荷され次第、ご連絡しますので、今回の注文はなかったことにしてください」と言うのだ。
「さっきの電話に出た女性は、在庫はある、と言っていましたが」
「実はなかったのです。こちらの確認ミスです」
相手の男は私の追求から逃げるような口調で話をする。
「いつ頃、入荷する予定ですか?」
「そのメドはまったく立っていません」
「海外からの入荷になるのですよね」
「どこからの仕入れになるのかは、お話しできません」
さっさと電話を切れといわんばかりの口調である。手元にない水を送れとも言えないので、「入荷したら、連絡をください」と言って、電話を切った。しかしその後、この業者から再入荷の電話がかかることはなかった。
怪しんでこの業者の住所を調べると、会社名は違っているものの、過去に霊能師のパワーを込めたとウソを言い、アクセサリー商品を販売して行政処分を受けた業者の住所と目と鼻の先だった。そういえば、今回も霊能師のパワーを込めた「水」の販売になっており、手口が似ている。実は、私は過去にこの開運商法を行う業者に直接電話をして、調査をしたことがある。もしかすると、私が注文を断られたのは、そうした経緯が過去にあったからかもしれない。今や、国内の悪質商法の業者から、商品購入を断られるとは、私もだいぶ認知されてきたものである。だが、体験取材が進められない状況では、嬉しいような悲しいような気持ちである。
「人生を大きく変える力を持つお守り」
落胆しながら、インターネットのサイトを巡っていると、「人生を大きく変える力を持つお守りを無料でくれる」というページを見つけた。このお守りには「A」という名の女性霊能師のパワーが込められており、これを財布やポケットに入れておくだけで、幸運が舞い込んでくるというのだ。
ここには、このお守りを持つことで「宝くじに当たり借金を返済した」「スポーツくじに当せんした」などという記述もある。私は昔から、くじ運はまったくない。宝くじは5等以外、当ったことがなく、ギャンブルで稀に勝つことはあるが、トータルの収支はいつもマイナスだ。人生で一度くらいは、億千万円と言わなくても、百万円単位で、ポン!と当てたいものだ。
私はこのお守りにお金が入る運気があることを信じて、もらうことにした。ただし、これを手に入れるためには、ウェブサイト上のいくつかの質問に答えなければならない。
そこで私は「あなたを一番苦しめている問題は?」の質問には「生活費不足」と「もっとお金を稼ぎたいのにできない」と書き、「自分は不幸な星のもとに生まれたと思いますか?」には、これまでにさまざまな悪質業者から罵られてきたことを思い出しながら「はい」に〇をつけた。「金銭的な問題を抱えていますか?」にも、毎月の生活費を稼ぐのに汲々としているのだから、金銭的問題を抱えていると言えるだろう。