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第6章 「どんな悩みも解決!」 「無料悩み相談」にすがる

『おいしい話に、のってみた。』
[著]多田文明 [発行]扶桑社


読了目安時間:18分
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 家のポストに「心にひっかかる思いをそのままにしていませんか?」というチラシが入っていた。そこには人間関係の悩みから、今後の自分自身の進路についてまで、どんなことでもかまわないから、悩みを相談してくださいとある。

 最近の悩み……。それは、何といっても安定的な収入を得て、所得を倍増させることである。この不景気なご時世、なかなか企画提案の売りこみをしても決まらず、ライターとしての収入が安定しない日々が続いている。こうした悩みを第三者に相談して解決できるものなのか? チラシまで配布しているのだから、よほど悩みの解決に自信があると思われる。まず相談する上で心配なのは、料金がかからないかという点である。このチラシには、ボランティアで行っているので相談は無料だと書いてある。タダならよいかと思い、チラシにある電話番号にかけてみた。

「相談したいことは何ですか?」


 チラシにある「佐藤(仮名)さん」の携帯に電話をした。呼び出し音が5回ほど鳴った。しかし誰も出る気配がないようなので、いったん切ろうと電話を耳から離した瞬間、ゆっくりとした口調で「はい。どうも」という声が聞こえてきた。

 私は慌てて、再び耳に受話器をあてた。
「先日、チラシがポストに入っていたので、電話をしてみたのですが、相談はこちらで大丈夫ですか?」
「ええ、ええ」

 声の感じから相談員の佐藤さんは、おっとりとした人の良さそうなおばあさんである。個人でボランティア活動でもしているのだろうか。
「相談したいことは何ですか?」と尋ねられたので、私は「この不況下でなかなか収入が安定しないことですね」と答えた。
「はいはい。仕事の悩みですね。それでは直接、こちらへおいでいただけますか?」

 相手はおばあさんだし、悪いことに巻き込まれることはまずあるまい。そこで相談場所への交通手段などを聞き、2日後にその場所へ向かうことにした。

「電車の都合でちょっと遅れます」


 相談所はどんなところであろうか。バスを降りて路地裏を進んでいくと、一軒の立派な家が現れた。門柱に「佐藤」という表札が掛かっている。住所を確認してみたが、間違いない。どうやら、自宅を悩み相談所にしているようだ。

 私は呼び鈴を押した。しかし誰も出てこない。もう一度押した。それでも出てこない。約束の時間なのに……。もしかして緊急の用事でも入り、相談がキャンセルされたのであろうか。そう思っていると、扉がガチャリと開き、80歳前後のおばあさんが出てきた。
「悩み相談はこちらでよろしいですか?」
「はい。こちらですよ」

 家の中に通されて、リビングの椅子に腰かけるように言われた。おばあさんはお茶を入れると、紙とペンを私の前に置く。いよいよ相談が始まるのかと思ったが、彼女は、なぜか私の隣に座る。普通、人の相談を受けるときは、向かい合って座るものではないか? 不思議に思いながらも黙ってなりゆきを待つ。
「それではまず紙に生年月日や名前、住所を書いてください」

 私はものの数分で書き終わったが、おばあさんはじっと黙ったまま、私の横に座っている。いったい、いつ相談が始まるのだろう。

 たまらず私は「今日の相談は、あなたが受けてくださるのですか?」と尋ねてみた。

 おばあさんは、はにかむような笑いをして、
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