仮面劇の象徴性
十四世紀に成立した日本の能は仮面劇といってよい。野間清六氏は『日本仮面史』で、「日本の仮面は、その品種の多い点に於て、又その作技の優れている点に於て、世界の仮面史に冠絶している」と述べている。そして「私は能面が仮面史上に誇り得る特色としては、個性的描写に進んだことと、顔面の写実を幽玄化したことと、悲劇面を作出したことの三つを挙げたいと思う」と語っている。
仮面のバラエティーの豊かさによって、日本の能が世界の演劇史上、稀有なものである、ということはできないかもしれない。しかしその表情豊かな仮面は、日本の演劇・能の主人公たちの性格の豊かさとユニークさを物語っているといっても間違いではないであろう。それだけ仮面という造形的な面を際立たせて、その効果をねらった演劇はないということでもある。だが、すべての登場人物が仮面であるわけではない。