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日本史の中の世界一
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歴史
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あとがき

『日本史の中の世界一』
[責任編集]田中英道 [発行]扶桑社


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●あとがき




 本書では日本史上、世界一と認定できる物事を、五十項目挙げてみた。この五十項目の選択は、世界史の中で各国の状況と比較する視野からもたらされたものだが、そこには客観的な比較、相対的な判断がある。

 ただ、その選択にあたっては、候補に挙がっていたものの、落とされたものも多かった。

 その議論の一例を挙げておこう。最初は世界一の一項目として「日本語」を挙げてはどうかと、編集部から提案があった。

 確かに日本語は豊かな語彙(ごい)を持っている。日常用語の十四万語は世界一だといわれる。日本語の特徴は、長い伝統のある社会のために秩序があり、敬語も豊かである。日常用語が多くなるのは当然であろう。

 岩淵悦太郎氏の『現代日本語』によると、フランス語は、日常の会話で二千語の単語を覚えると、八三・五%が理解できるが、日本語の方は六〇%しか理解できないという。英語やスペイン語に比べても、日本語の方が多くの言葉を覚えなければならない。さらに、フランス語は五千語の単語を覚えると、九六%理解でき、あと四%だけ辞書を引けばよい。英語、スペイン語も大体同じようなものであるが、もし日本語においてその九六%を理解するためには二万二千語を理解しなければならないという。つまり四倍以上覚えなければならないというのだ。

 しかし、単語の数からいうとどうであろう。もともと日本語は、口語の原日本語に加えて、文字に漢字を入れて中国語を取り入れ、カタカナによって西欧語も移入した。戦前の平凡社の『大辞典』では見出し項目が七十二万語あったし、戦後の小学館の『日本国語大辞典』では優に四十五万語を集めている。しかし数からいうと、アメリカのウェブスターは六十万語、イギリスのOEDは五十万語を載せているのである。そして調査では、英語の実際の語彙数は一千万あるという(中野洋一氏による)。確かにヨーロッパ語はラテン、ギリシャからケルト、ゲルマンの諸国語を包含していると考えればそれも(うなず)ける。

 私自身も数カ国の留学体験があるが、日常で簡明ないい方をするヨーロッパ語がいいか、ニュアンスの多い日本語がいいかは、それぞれの歴史風土がつくり出したものでもあり、それでは優越はつけられないだろう。ただ、私は日本に生まれ育ったから、日本語を愛するだけである。そうした思いから、ユニークではあるが、日本語を世界一であるとすることから外さざるを得なかった。

 また芸術の優劣の問題がある。私はフランスやイタリアに赴き、西洋美術史を研究してきた。特にミケランジェロのシスティナ礼拝堂天井画修復の際の調査団に加わり、その圧倒的な迫力に感銘を受けた。レオナルド・ダ・ヴィンチのスフォルツア騎馬像の復元にも取り組んだ。

 しかし、そんなイタリアの超一流と比べても、日本の美術は決して劣らないと考えている。七、八世紀の法隆寺、東大寺の建築、絵画、彫刻の素晴らしさにも、同じように感動していたからである。三月堂の日光、月光菩薩(がつこうぼさつ)の気品と、戒壇(かいだん)院の四天王の威厳は、世界の彫刻史上、傑出したもので、世界一といってよい。作者も共に、国中連公麻呂(くになかのむらじきみまろ)という作家であることは様式上、明らかである(日本の美術史家は、文書しか信用しないから作者を確言しないが)。鎌倉時代の運慶(うんけい)の彫刻、『平治物語絵巻』の絵画なども、世界一といっていい。かえって「ルネッサンス」のはるか以前の時代にこれらは創造されているから、真の世界一といってよいだろう。

 だが、私はこれらをこの本に、世界一、として載せることに躊躇(ちゆうちよ)した。ミケランジェロもレオナルド・ダ・ヴィンチも世界一であるし、ギリシャのフエディアスも世界一である。それぞれ異なった様式、異なった図像で、世界一を主張し合っている。それならそれぞれ世界一とはいえないのではないか。それに日本の美術史家たちの及び腰も気になった。まだ私以外に、国中連公麻呂を天平のミケランジェロというくらいの研究も評価も出ていないのである。こうした研究家たちの自信のなさも、評価のマイナス点である。自国の文化の価値がわからない史家が依然として多いことは、その国の学問の弱さといってよい。何もナショナリズムを主張しろといっているのではないことは、それらの作品を見ればおわかりだろう。

 また、日本の宗教家、あるいは思想家を多く入れたかったが、その中で、空海の存在をどうするか、ということも問題になった。たとえ宗教上の大思想家としてでなくとも、空海の「書」は日本では三筆の一であり、その点でも加えてもいいのではないか、という提案であった。空海は、入唐して三年という短い滞在ながら長安で青竜(しようりゆう)寺の恵果(えか)に密教を託され帰国した。『三教指帰(さんごうしいき)』をはじめ『弁顕密二教論(べんけんみつにきようろん)』『十住心論(じゆうじゆうしんろん)』など、真言(しんごん)密教を日本で確立した傑出した存在である。そして高野山で日本の山岳宗教と融合し、民衆の中でその教えを広め、日本独自の仏教をつくりあげた。

 しかし仏教の日本化や、各宗教の融合という面では聖徳太子の方が特筆すべきであろうし、宗教家としては同時代の最澄ばかりでなく、親鸞、日蓮なども挙げなければならない。書も王羲之(おうぎし)の模倣でもあるし、日本一といっても世界一のジャンルではないように思える。実践家ではあるが、著述した経論は、もともとのインドの経論を抜いたわけではないだろう。反論もあろうが、この書では取り上げなかった。

 また物質的な面でいうと、豊臣秀吉の天正大判の大きさの世界一というものも載せなかった。確かに長径約十七センチメートル、短径十センチメートルと世界最大の金貨なのであるが、それ自身、ギネス・ブックのためにはいいが、あまり誇るべきものでもない。豊臣秀吉は全国統一を成し遂げ、大名諸侯の金銀鉱山を没収し、大量の金銀を手中にしたが、これを元に天正年間(一五七三〜九一)に金銀貨幣を鋳造した。その中の一つである。十六、十七世紀が世界でも日本が最も豊かな国の一つであったことは、角山榮氏が担当された項目で述べられているので、このことは省いていいだろう。
「戦後日本、奇跡の戦後復興と高度経済成長」は、日本の驚異的復興を世界一としたものだが、これはドイツやイタリアあるいは最近の中国や韓国も数字の上では日本と並ぶものであろう。しかし磯前秀二氏も述べるように、日本は内部蓄積が多く、外からの資本に頼ることが少ないことが、基本的に世界経済大国二位の地位を揺るがないものにしているのである。

 日本の国歌や日の丸を世界一にした点は、ナショナリズムと取られる向きもあるかもしれない。しかし日本の国歌も国旗もその歌詞、その意匠(いしよう)は、世界で最も古いことは事実である。それは西洋国家の近代主義を世界で唯一打ち砕く、象徴的存在であるといってよい。それはまた天皇が最も古い「万世一系(ばんせいいつけい)」の存在であることと通底している。それは事実として主張してよいことである。

 また現代都市としての東京を世界一と考える説もある。人口の規模も集中度も周辺を入れると世界一である。ミシュランの東京レストラン・ガイドも、パリより多い数を示しており、世界一の美食都市となっている。だがヨーロッパや中国の都市に見慣れた史家たちには一見無秩序で、混乱していると見られるらしい。そうでありながら、最も秩序のある活気に満ちた都市でもある。戦後復興の日本の項目か、この東京かということになったが、最終的には経済復興の方が選ばれた。

 近代の日本人による発明、発見の歴史も調べたが、それらを入れると数も多くなり、今回は外さざるを得なかった。これからも、これこそ世界一と思われる事実、思想など指摘があれば、加える機会を持ちたいと思う。そしていずれ「世界史の中の世界一」につなげたいと考えている。こうした視野が、世界史、日本史を実りのあるものにすると思われるからである。

 また本書の項目の選定に際しては、多くの書籍及びネット記事を参考としたが、さまざまなジャンルでの日本の世界一を紹介していた「日本の世界一ドットコム」(ザ・ユニバース)には有益な示唆をいただいた。なお、記述にあたっては参考文献をできるだけ上げるようにつとめたが、遺漏もあろう。御寛容を願いたい。

 この書を提案され、監修を私に託されたのは伊藤隆氏(東大名誉教授)である。執筆も私が半分ほど受け持ったが、それ以外は、育鵬社編集部が、それぞれの事項の専門家か、通暁されている十五人の方々に依頼した。そのお名前と御経歴は巻末に付した。これらの執筆者の皆さんと編集者・真部栄一氏、大越昌宏氏の御協力に心から感謝したい。


 平成二十年十二月十一日田中 英道 
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