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エンタメ
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第二章 『銀座旋風児』〜小林旭という時代〜

『不器用なもんで。』
[著]金子達仁 [発行]扶桑社


読了目安時間:13分
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 昭和30年代、小林の日常は映画そのものだった。とりわけ、地方ロケに行くと、映画『流血の縄張り』さながらの逃亡劇を余儀なくされた。もっとも、現実世界で追ってくるのは、チンピラではない。群衆だった。

 ある日、小林は霧島高原でのロケのために九州は宮崎にいた。

 ロケ隊を迎える宮崎交通の社長は、ヒロイン役の浅丘ルリ子と小林に乗ってもらうため、新車のオペルを購入した。

 宮崎駅からそのオペルに乗り、高原へ向かうにはいくつかの村を越えなければいけない。その中のひとつ、小林村(現・小林市)へ向かっていると、道を防ぐように大木が転がっている。道は細い自然道。どかさなければ進めない。運転手が持ち上げようとするが持ち上がらない。小林と演技事務の男性が加わり3人でようやくどかすと、10メートルほど先の原っぱで、ガサガサっと誰かが走って行くような足音が聞こえた。
「なんだい、熊でもいんのかい?」

 熊ではなかった。スターたちの到着を村に伝える伝達係、人間だった。

 ひとまず安堵した小林だったが、まもなく、彼は「獣の方がまだマシだった」と嘆くハメになる。

 小林村の入口は、10メートルほどの上り坂になっていた。両脇に商店街を構えるその坂は村のメインストリートのはずなのに、人っこ一人いない。
「妙に静かだな。まあ、今のうちに行っちゃえ」

 首をかしげつつ進むと、前方の坂の上に黒い波が広がっていく。
「何だ?」

 目を凝らして見ると、それは人、人、人だった。人の波が小林たちが乗ったオペルを呑み込む勢いで、迫って来る。

 驚いた運転手がクラクション鳴らしまくるが群衆はひるまない。
「わあーっ!」「ああーっ!」

 奇声を発しながら突進するさまはまるで西部劇で、ピストルを持った白人に向かっていくインディアンのようだった。

 人の圧力に押され、とうとう車は止まってしまう。

 今だ、とばかりに車を襲撃するインディアン。

 バンバンッ、バキ、ギシャ。

 窓ガラスには貼り付けるだけ人間の顔が貼り付いてくる。無数の目が小林とルリ子をジッと見つめていた。

 堪らずルリ子が泣き出してしまうが、それでも暴徒の勢いは止まらない。

 ビシャ、グチャ、パキン、ドチャン。

 車内には神経を逆撫でするような音が響いている。

 ボンネット、屋根、トランクに人が乗り込み、社長自慢のオペルは一瞬にして群衆の山に覆われた。
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