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エンタメ
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第五章 『ギターを持った渡り鳥』〜小林旭という人間〜

『不器用なもんで。』
[著]金子達仁 [発行]扶桑社


読了目安時間:19分
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 憧れたターザンがそうだったように、小林は動物に好かれる人間だった。

 ある雨の日、二子多摩川にあるゴルフ練習場へ行くと、玄関にある受付の脇に泥まみれになった灰色の犬が、ハチ公よろしく座っている。
「どうしたの、あんた。ビジョビジョじゃないのよ。中に入って濡れないところへ座ってなさい」

 そう声をかけてはみたものの、犬は物言わず震えているだけ。仕方なく頭をなでてやり、そのまま練習場へ入った小林。2、3時間汗を流した後、出てくると、まだ同じ場所で同じように震えている。

 たまらず、フロントに、
「これの飼い主はまだ中にいるのかい?」

 と聞いてみたが、
「いやあ。私たちも気にはしているんですが、どなたも迎えにこられないし、連れてきたって人もいないんです。でも、ずっとそこにいるんですよ」

 との返事。
「それは寂しいねえ、濡れてるとかわいそうだねえ」

 と、頭をポンポンっと叩いて慈しみ、「さて、帰ろうか」と、駐車場へ歩き出すと、その犬がテクテクついてくる。
「おっ、お前も帰るのか? じゃあな、元気でな」

 声をかけ、愛車のドアを開けたら、なんとその犬がズカズカと乗り込んできた。
「おいおい、おまえ、濡れたまんまで入るなよ。ちょっと待ってよ」

 練習用のタオルで体を拭いてやると、初めて白い犬だということに気づいた。綺麗になって嬉しいのか、尻尾を振るそのさまに負け、仕方なく、連れて帰る腹を決めた。タオルを車内の足場に敷き、
「そこへ座れ」

 と言えば、言葉が分かるかのようにちゃんとそこへ座る。道中、当然のようにおとなしくしていたその白い犬は、家に着くと、小林の後ろを着いて階段を上り、毎日そうしてるかのようにソファの上で横になった。

 そのまま家に住み着いた「シロ」は、老衰で他界する時も、そのソファの上で眠るように死んだという。

 過去には何匹も犬を拾っては飼い、拾っては飼いを繰り返した。自宅の近くで拾ったシェパードやドーベルマン。山中湖の別荘では、目の見えないプードルと少し奇形がかった柴犬を拾ったこともあった。
「目の見えない犬を捨てるなんてとんでもないヤツがいるんだな。手助けがないと、生きていけないだろうに」

 酒もタバコもやらない。誘われて狩猟をしてみれば、動物が見せる死の瞬間がやるせなくて、撃てなくなった。そんな小林が生涯を通じてハマった娯楽が、ゴルフだった。
「人間の命なんて一寸先は闇。ゴルフのゲーム運びもそれと同じ。自然を相手に『何をどうすれば自分なりによくやった、って言えるようになるんだろう』ってそれだけを考えてプレーする。人生もそうだろ?」

 ゴルフは人生に似ている──そんな常套句が語られるようになるずっと前から、小林はゴルフが好きだった。
「俺が始めた頃のゴルフは、『紳士』と言われる人たちだけがやるスポーツだった。いかに自分が高級なスコアで回れるか。数少なく攻略できるかだけに神経を使って、後はフラットな関係だったんだ」

 以前のゴルフ場は、たとえ大手企業の幹部たちとコースを回っても、
「会長さん」
「社長」

 などという野暮な呼び方をする人はいなかった。あくまでただのプレーヤーとして、
「小林さん」
「山田さん」

 と、名前で呼び合い、ゲームを通じて人生観を語り合う。肩書を捨て、一人の人間として自然との調和を楽しむスポーツがゴルフだった。
「それがいつしかゴルフも人間同士の欲を解消する手段になっちまった。勝手気ままに『自分が楽しけりゃいいじゃねえか』ってゴルファーが増えてきたよ」

 ゴルフ場が一気に増えたバブル期、金を持て余したサラリーマンたちによって、ゴルフが一般的なスポーツになると、スーツの代わりにゴルフウェアを着た働き者たちが、群れをなしてゴルフ場に通っては、
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