確かに東京の開催計画の評判はいい。「だが」と、国際オリンピック委員会(IOC)関係者は漏らす。
「評判と票は別ものです」
なぜかといえば、投票するのがIOC委員だからである。五輪開催都市選定は、何も単純な都市の人気投票ではない。通常の国政選挙と違い、この道を熟知する百戦錬磨の五輪のプロがとことん吟味し、投票することになる。だから、浮動票など、ない。
候補都市の開催能力からオリンピック・ムーブメント(五輪運動)における貢献度、都市関係者との信頼関係、あるいは個人的利害も加味し、判断することになる。30年間もIOCに関わり、2011年いっぱいで80歳定年制によりIOC委員を辞めた、猪谷千春は説明する。
「100人には100人の考え方があります。IOC委員は異なるバックグラウンド、異なる文化、宗教、環境からきています。異なる価値観も持っています。例えば、ひとつの色をあるIOC委員は“いい色”ととるかもしれないし、あるIOC委員はそうでもない色ととるかもしれない、あるIOC委員は中間色ととるかもしれません。要するに、ひとつの方程式に全部をあてはめるわけにはいかないのです」