コトバは時に刃物となる。災いのもとにもなる。とくに政治家のそれは重い。だから、慎重に使わないと後悔する。著述家でもあるのだから、猪瀬都知事はコトバの威力を十分にわかっているはずである。なのに…。ひとつの失言と、対応のまずさが、2020年の五輪パラリンピック招致を目指す東京都の招致活動に打撃を与えた。
猪瀬知事は4月14日から5泊6日で、夫人同伴のうえ、ニューヨークに視察旅行に出かけた。五輪招致の協力要請も目的のひとつだったが、その合間にニューヨーク・タイムズ紙のインタビューを英語で受けた。
4月27日にアップされたニューヨーク・タイムズ紙(電子版)の英文記事には、〈In Promoting His City for 2020 Games, Tokyo's Bid Chairman Tweaks Others〉(2020年五輪招致を推進するなかで、東京招致委会長が他都市を批判)とのタイトルが使われ、猪瀬知事の次のような発言が引用された。
〈イスラム教の国々が共有しているのはアラー(神)だけで、お互いにけんかばかりしている。そして階級がある〉
〈競技者にとって一番いい場所はどこか。インフラが整っておらず、洗練されていない2つの国と比べてみてください〉
〈トルコの人も長生きしたいでしょう。長生きしたければ、日本のような文化をつくるべきだ。若い人は多いかもしれないが、早く死んでしまうようでは意味がない〉
(「朝日新聞」5月1日付朝刊より)
ゴールデンウィーク中の4月29日月曜日、日本のメディアがこの発言を報道し始めた。