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インテリジェンス人生相談 社会編
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生き方・教養
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まえがき

『インテリジェンス人生相談 社会編』
[著]佐藤優 [発行]扶桑社


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 アリストテレスが述べたように、「人間は社会的動物」である。完全に孤立して、一人で生きていくことができる人間はいない。だから、人間が抱える問題は、必ず社会性をもつ。しかし、新自由主義的傾向が強まった、現在の日本社会では、一人一人が原子(アトム)のように分断されてしまい、社会的連帯のイメージが湧かなくなってしまっている。もっと簡易な表現をすると、ほんとうに腹を割って話をすることができる友だちを作りにくくなっている。

 週刊『SPA!』の連載「佐藤優のインテリジェンス人生相談」に掲載されたなかで、社会的性質の強い相談と回答を収録し、黒巻とした。さらに、2008年12月5・6日に、私が『SPA!』編集部に陣取って行った「佐藤優のインテリジェンス電話人生相談」(印で記している)についても、貧困、国家などに深く関わるものを本書に収めた。誌上だと相談と回答の一往復であるが、電話だとやりとりが繰り返されるので、より深く踏み込んだ回答ができる。電話人生相談は今回、初めて公開されるので、『SPA!』の連載を漏らさずに読んでおられる方も本書を手にとってほしい。
“黒”という色を選んだのには、理由がある。スタンダール(19世紀中期のフランス人作家)の小説『赤と黒』を少しもじってみたのだ。『赤と黒』は有名だが、ほとんど読まれていない古典の一つで、出世欲に取り憑かれたジュリアンを主人公とする物語だ。著者のスタンダール自身は、『赤と黒』という題名の由来について説明していない。ジュリアンがキャリアを積もうとした軍服(赤色)、司祭服(黒色)からこの題名がつけられたのではないかという説があるそうだが、私は少し別の解釈をした。“赤”は血を象徴する人間の情熱を表す。これに対して、“黒”は死を象徴する。会社勤め、学生など社会生活をするには個人的なわがままや情熱を殺さなくてはならない。そういった状況下で、人々はストレスを感じることになる。就職、貧困、国家など社会と関わる事柄のシンボル色を“黒”としたのはそのためだ。もっとも社会的問題であっても、受け止めるのは個人である。したがって、黒巻(社会編)と赤巻(個人編)を併せて読んでいただくと、「1+1=2」ではなく、「4」か「5」になる。

 黒巻では新自由主義政策がもたらした貧困問題について多くの頁を割いた。日本社会を覆っている貧困は、本人が怠けているから生じたものではない。社会構造から生まれているものだ。滑り台のように、一度、“下”に降りてしまうと、なかなか這い上がることができない。「薄給の介護ヘルパーで将来の展望がもてない」(第49番)、「ネットカフェ生活から抜け出せない」(第56番)という相談には、日本社会の矛盾が端的に現れている。

 一昔前ならば、このような貧困は資本主義システムから生まれているのだから、革命によって社会主義(共産主義)社会を築けば問題は解決するという処方箋を提示する、左翼の有識者が多かった。しかし、我々はソ連型社会主義という地獄絵について知っている。革命が起きても、人間の支配欲は変わらない。官僚支配によるスターリン型や金正日型の社会主義よりも、平均的日本人にとっては、資本主義の方がそれでもずっとマシな選択だ。

 日本における、資本主義の矛盾を解決するための処方箋は恐らく2つしかない。一つは、新自由主義的競争で勝利した者が、自らの富の一部を自発的に社会的弱者に提供する「贈与」だ。もう一つは、知人間、友人間の「相互扶助」だ。「ホームレスになった友人を救いたい」(第50番)という心情をもつ人が多くなることで、日本社会は強化される。

 国家に関する相談が多いことも興味深い。1989年11月のベルリンの壁崩壊に象徴される東西冷戦の終焉から、そろそろ20年が経過する。冷戦が終われば、平和な時代が世界にやってくるというのは幻想だった。2001年に起きた9・11事件で、テロとの非対称の戦争が世界的規模で拡大した。当初、アルカイダに対して、主要国が団結し、国際テロリズムに対抗する統一戦線が組まれていたが、現在は主要国間の亀裂が深刻になっている。特に、2008年8月のグルジア・ロシア戦争後、国際社会のゲームのルールが大きく変化した。グルジアの後見人であるアメリカとロシアの間では、帝国主義ゲームが行われている。それが徐々に世界に広がり、新帝国主義の時代が到来していると私は考える。各国が露骨に国益を主張し、これ以上無理をすると諸外国から反発を買い、自国に不利な状況が予測されるときにだけ、国際協調に転じるというゲームだ。共通の価値観よりも現実的利害という観点から外交が組み立てられることになる。こういう状況では、交渉にあたる外交官の個人的資質が大きく問われてくる。

 残念ながら、日本外務省は国民の期待に応えるような活動をしていない。日本外務省は、私の全著作のチェックを行っている。「日米関係のなかで、私が幸せになるには?」(第66番)、「国際的な日本の立ち位置が心配だ!」(第69番)といった相談も、外務官僚の目に触れている。その結果、もう少し、背筋の通った外交がなされるようになれば、私としても本望だ。

 

 
2009年4月24
佐藤 優
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