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八重の虹〜新島八重と羽ばたく幕末明治の女性たち
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歴史
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男勝りの少女

『八重の虹〜新島八重と羽ばたく幕末明治の女性たち』
[著]加来耕三 [発行]扶桑社


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 会津藩士の娘・山本八重(のち新島八重)は、八十八年の人生を生きている。

 後世からふり返ったとき、最初の分岐点となったのが、戊辰戦争であった。

 慶応四年(一八六八)の九月、会津藩は籠城戦を一ヵ月戦った。このおり、八重は二十四歳。その後の彼女の人生は、この戦いに大きな影響を受けることになる。二十七歳で兄・山本覚馬を頼って京都へ移った八重は、ここで宣教師の新島襄と出会い、結婚する。

 日本人同士としては、京都における初の、キリスト教による結婚式が彼女の三十二歳のおりであった(新島襄は三十四歳)。

 その新島が四十八歳でこの世を去ったとき、八重は四十六歳。

 その後の人生を、彼女はさらに四十二年、生きたことになる。

 すなわち、新島との生活をまんなかに、前・中・後期と彼女の人生は、三分することが可能であった。

 この三つの人生の中で、新島と共に生活した中期をのぞいて、彼女のキリスト教精神に影響を受けた生活は、きわめて見出しにくく、未亡人となってからはむしろ、八重は夫が創設した同志社との間に距離をおき、茶道や和歌、禅、あるいは看護婦としての活動を、自らの生きがいの中心に置いていた。

 終始、三期区分の人生に変わらぬ意志があったとすれば、生涯抱きつづけた“会津魂”だけであったろう。その意味において彼女は、会津の女子でありつづけた。

 第一章でも少しふれたように、八重は弘化(こうか)二年(一八四五)十一月三日(新暦では十二月一日)に、会津で生まれている。
「上士黒紐席(くろひもせき)」といわれた、会津藩の砲術師範の家に生まれ、父を権八(良高)、母を佐久といった。佐久は家つきの女性で、父は婿養子に入り、代々の「権八」を襲名している。

 十七歳年上の兄・覚馬があり、二歳下の弟・三郎がいて、夭折(ようせつ)した男女三人の兄弟を除いて、八重は男兄弟に挟まれて育ったことになる。

 幼なじみの日向ユキ(内藤兼備(ないとうかねとも)の妻)の回想談によれば、八重は彼女より六歳年上でありながら、年下のユキと一緒に針仕事を習いにかよっていたという。女性だからといって、かならずしも炊事・洗濯が得意とはかぎらない。

 封建制の時代にも、裁縫の苦手な女性はいたはずだ。

 半面、八重は男勝りで、幼少の頃から男子に交じって石けり、石投げなどをして遊んだという。かけっこをしても、男の子に負けなかったとか。男勝りな人柄がうかがえよう。
「男の子には負けませんでした」

 と後年、きっぱり語るだけあって、気力・体力面において、彼女は自信をもっており、ことのほか活発であったようだ。

 そういえば、八重は父から『日新館童子訓』を教わり、これを完全に暗記して、八十すぎてもまだ覚えていたという。

 会津藩には天下六十余州にきこえた、優秀な藩校「日新館」があった。

 十歳になると、藩士の子弟はここに入学するのだが、それ以前に六歳からは「(じゅう)」という、子供だけの集団生活を体験し、十歳からの藩校生活に備えた。少し年齢はずれるが、今の小学校と思えばよい。

 ここで、「什」のおきてを学ぶ。

一、年長者の言ことに背いてはなりませぬ。
二、年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ。
三、嘘言(うそ)を言ことはなりませぬ。
四、卑怯な振舞をしてはなりませぬ。
五、弱い者をいめてはなりませぬ。
六、戸外で物を食べてはなりませぬ。
七、戸外で婦人と言葉を交へてはなりませぬ。


 そして、くり返し次の一節を唱和した。
「ならぬことはならぬものです」

 ただし、前の「什」のおきての「七」にもあるように、これらは男子を対象とした訓示であった。「日新館」も、入学資格は藩士の子弟=男子にかぎられていた。

 八重だけが特別に、「什」や「日新館」で学べたはずがない。尚武(しょうぶ)の藩である会津では、女子にも同種の精神が、家庭生活の中で教育されていたのだろう。

 時代は幕末とはいえ、徳川幕藩体制下である。女性が男女同権を唱えることなど、考えられなかった。ただ、八重は素朴に、男の子に負けない自分が、どうして男の子と同様に学べないのか、といった反感・反発は胸にあったとしてもおかしくはなかったろう。

 武家の女性には薙刀という武器がありながら、あえて元込七連発の新式スペンサー銃をなぜ、彼女は手にしたのか――このあたりにも、八重の心の葛藤(かっとう)が感じられるような気がする。

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