彼にとって新島襄という人物は、どういう存在であったのだろうか。
子供の時に見た故郷の山とか、川とかが、当分故郷を離れて後、帰り来て見れば、余りにその現実が裏切られていたのに驚くことがある。これほど大なる山はないと思うたる山が、それくらいの山はどこにでもあり、頗る大なる川と思うたる川が、殆んど問題にもならぬくらいの小川であったり、今さら子供の時の眼を疑うことがある。
人間についてもその通りであって、少年時代の眼に映じたる英雄が、中年以後では、尋常一様人たる例は鮮くない。しかし新島先生については、如上(ただいま)の例は適用されない。