明治を迎えた日本の女性には、そもそも仕事か結婚か、といった二者択一自体が成り立たなかった。
女性はある一定の年齢がくれば結婚するもの、できなければお妾さんになるべし。なにしろ、女性が働ける職場そのものが、当時の日本には皆目存在しなかった。
私企業すら勃興しておらず、公務員=役所は男子の働くところ。女性が家の外で働くといったイメージは、大半の日本女性にとって、想像すらできないものであったに違いない。
――ここに、一通の手紙があった。
夫から妻へ宛てたもので、明治十四年(一八八一)五月十日に出されたものだが、かなりの長文である。