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インテリジェンス人生相談 復興編
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雑学
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まえがき

『インテリジェンス人生相談 復興編』
[著]佐藤優 [発行]扶桑社


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 誰もが人生のなかで、さまざまな問題に直面する。同時に社会や国家も生き物なので、人間同様にさまざまな問題を抱えている。特に日本の場合、2011年3月11日の東日本大震災によって、危機的状況が生じた。危機を英語でクライシス(crisis)というが、これはもともと峠とか、分かれ道を意味する。病気の場合、クライシスを危篤あるいは重篤と訳す。峠を越えて健康が回復する場合もあるが、死に至ることもある。われわれ1人1人も、日本の社会と国家も現下の危機を克服して生き残らなくてはならない。その思いを込めて、『インテリジェンス人生相談』の第3弾になる本書には「復興編」という題をつけた。

 人間は群れをつくる社会的動物だ。誰の世話にもならず、他人との関係を完全に遮断して生きていくことができる人は1人もいない。日本猿やゴリラのような高等動物だけでなく、ニシンのような魚、蟻や蜂のような昆虫も、群れをつくる仲間がお互いに助け合いながら生きている。なぜわれわれ人間は、お互いに助け合いながら生きていくことができないのだろうか。日本人の場合、助け合いの伝統が強かった。それがおかしくなったのは、過去十数年間に弱肉強食の新自由主義が日本社会を席巻してしまったからだ。新自由主義は、個体がすべてであるというアトム(原子)的世界観を採用する。スタート時点で、平等な人間が競争して、それで勝利した者が多くの分配にあずかるという考え方だ。一見、フェアなルールのように見えるが、そうではない。

 人間は、自分が生まれた環境によって制約を受ける。大金持ちの家に生まれた子供と、普通のサラリーパーソンの家に生まれた子供、あるいは母子家庭に生まれた子供では、スタート時点での条件が異なってしまう。新自由主義社会の競争原理では、金儲けと教育が一体になってしまう。偏差値競争に勝ち抜いて、難しい大学を卒業した人が、社会人になってからの所得が増えるという傾向が生じる。学問の目的は真理を追求することだ。金儲けとは関係ない。関係のない事柄を無理に関係づけてしまうから、世の中がおかしくなるのだ。

 子供の「お受験に」熱中する親は、主観的には子供の将来の幸せを考えているのであろう。しかし、偏差値競争に子供を投げ込むこと自体が、子供の世界観(ものの見方・考え方)に深刻な影響を与えることについて、教育熱心な親は、あまりに無自覚だ。中学・高校・大学受験、さらに国家公務員試験、司法試験、公認会計士試験などの難しい国家試験で評価される能力は共通している。この種の試験では、教科書に書いてある内容を記憶して(理解しなくてもいい)、その内容を1時間半から2時間の筆記試験で正確に再現する能力が測られる。もちろんエリートにとって知識を正確に記憶し、復元する能力は必要だ。しかし、それは最低条件であって、それ以外に必要なことがたくさんある。現行の試験では思いやり、信頼、慈しみのような、数値化に馴染まない人間の能力を測ることができない。こういう一面的な能力だけで選ばれたエリートが霞が関(中央官庁)でしのぎを削る競争を十年くらいしていると、「他人の気持ちになって考えることが苦手」という人種が大量に形成される。新自由主義が日本社会に本格的に広がるにつれて、政治家、経済人、マスメディアにも急速に霞が関官僚のような人種が増殖した。ロシアやドイツには、「魚は頭から腐る」という俚諺がある。国家が弱体化するときは、まずエリート層が腐敗するということである。日本の「頭」が腐り始めている。

 エリート層と比べて、普通の日本国民は、偏差値競争においては劣るかもしれない。しかし、このような数値化できる能力と別の、人間として本来備わっている知恵が普通の日本人には備わっている。こういう日本人の底力が東日本大震災後、目に見える形で発揮されている。日本人が、不安を抱え、厳しい状況においても職場を放棄せずに、淡々と働き続けていることが重要なのだ。大震災からの復興シナリオは決して難しくない。地震と津波によって、あれだけの大量破壊が生じたのである。日本人1人1人が、今までよりも一生懸命になって働き、生産を増大していくことが復興のカギになる。そのための枠組みをつくるのが政治エリートの仕事だ。国会議員や官僚などの政治エリートが、日本の社会と国家において果たすべき機能をきちんと果たしていないから、現下日本のていたらくが生じているのだ。

 本書に寄せられた質問は、一見、個人的問題のように見える。しかし、少し掘り下げて考えてみると、1人1人が抱えている問題が、雇用、不安、貧困などの社会的問題と深く結びついていることがわかる。インテリジェンスとは、目に見えないが、現実に対して影響を与える力を読み取る技法でもある。『週刊SPA!』に毎回寄せられる人生相談に、私は全力で取り組んでいる。そこでは、目に見えない構造を解き明かすことに力を入れた。1人では解決できない問題でも、多くの人の知恵をあわせれば解決できる場合がほとんどだ。一昔前ならば、学校や職場の友人や先輩が親身に相談に乗ってくれたが、前に述べたように新自由主義的なアトム的世界観が主流になってしまったため、なかなかこういう相談ができないような空気が日本の社会を蔽っているのだ。現状を嘆いているだけでは何も変わらない。日本人1人1人が勇気をもって、本来の人間と人間の絆を取り戻す努力をすることが重要だ。そして、日本社会に信頼を取り戻すのだ。人間の隣には人間がいる。苦しんでいる人、悩んでいる人が隣にいたら、放っておくことができないというのが人間の本来のありかたと私は信じている。競争社会で疲れ切ってしまった現下の日本人は、本来の人間性を失いかけている。私自身、外務官僚の頃には、目の前の仕事(特に北方領土交渉)に追われ、隣にいる人の悩みに真剣に耳を傾け、考えるということを怠っていた。もしあのときに、他人の悩みを自分のこととしてきちんと受け止める気構えがあったならば、もっとよい外交ができたと反省している。本書を日本復興のための実用書として最大限に活用して欲しい。
2011年8月 佐藤優
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