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プロローグ タイホ

『依存症』
[著]倖田梨紗 [発行]_双葉社


読了目安時間:6分
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 ――いつか、こうなることはわかっていた……。


 


 その日は、明け方、引っ越したばかりのマンションに帰宅して、私はひとり、シャブ(覚せい剤)をやって眠りについていました。


 うつらうつらと浅い眠りを繰り返して、夢なのか現実なのかよくわからない状態のまま、意識が(もう)(ろう)としていたときにチャイムが鳴ったのです。


 朝9時――。やってきたのは厚生労働省・麻薬取締部の取締官たちでした。大家さんから鍵をもらった彼らはオートロックを解除してマンション内に入り、まっすぐ私の部屋に向かってきます。チャイムを鳴らすや、ドアを開ける取締官たち。しかし、ドアにはチェーンがかかっています。すると彼らは専用の器具でチェーンを壊して入ってきたんです。覚せい剤のためか、それとも眠気のためか、まだ頭がはっきりしないまま、呆然とする私。


 目の前には、女性2人と男性が7人。まるでドラマのように、紺のシャカシャカしたウインドブレイカーを身に(まと)い、感情のない事務的な顔を私に向けてきます。


 ――ああ、ついにこの日が来てしまったか……。


 正直、驚きました。でも予感めいたものはあったので、取締官に家宅捜索令状を提示されたときには覚悟はできていました。


 表情のないまま令状をかざす彼らに向かい、無言でうなずく私。下着のような恰好の私に、取締官が最初にいったのは、「まず何か着なさい」という一言でした。


 女性取締官につき添われ、白いスウェットに着替えたあと、殺風景なリビングの真ん中に座らされ、ひとり、(ひざ)を抱えていました。


 正直にいうと、まだシャブが効いていて、キマったままだったんです……。喉も渇いていたし、目薬も差したかったのですが、何もさせてもらえない。水を飲むことも目薬もダメ。その場から動くことも禁止されました。


 


 ――このあと、私はどうなってしまうんだろうか。


 これまで一番落ち着ける場所だったはずの自分の部屋が、これから入れられてしまうかもしれない牢獄のように思えて、急激に恐怖がこみ上げてきました。


 そんな私のことはおかまいなしで、麻薬取締官たちは手分けをして家宅捜索をはじめています。ユニットバスの天井裏、クローゼット、トイレ、浴室、乾燥機、ゴミ箱……1LDKの部屋のなかをひっくり返すように、くまなく探し回る取締官たち。


 リビングを調べていたある取締官が、ひとり丸くなって視線を泳がせている私のことをちらちら見てきます。目線を追っているのです。そして、私の目の前にある机の引き出しから白いメガネケースを取り出しました。そこには、ビニールパックに入った覚せい剤(0・027グラム)が入っているのを私は知っています。

「これは覚せい剤ですね?」


 こう聞かれ、無言でうなずきました。同じ室内から、別の箱に入った乾燥大麻(0・077グラム)とシャブを気化して吸入するためのガラス製のパイプも、彼らは見つけました。私はただ、目の前で次々に(あば)かれる自らの悪事を呆然と見つめていることしかできませんでした。


 1時間半の家宅捜索が終わり、取締官に「同行してください」といわれたときに、「顔だけ洗わせてください」とだけお願いしました。


 ――いつ戻って来られるかわからない。


 という思いだったのかもしれません。顔を丁寧に洗い、化粧水とクリームを丹念に顔に塗り込みました。これから自分の身に何が起こるのか、不安でたまりませんでした。シャブも切れてきて、どんどん恐怖心が募っていきます。その場で体重を測り、取締官に囲まれて黒いバンに乗せられ、連行されました。


 これが、2008年1015日、私が「覚せい剤取締法違反(所持)および、大麻取締法違反(所持)容疑」で、現行犯逮捕された、まさにその瞬間です……。


 


 それから、昼は取り調べ、夜は警視庁本庁の留置場という生活を送ることになります。しかし、初犯でしたから、執行猶予をもらうことができて1カ月半ほどで釈放されることになりました。その間、当時、私が交際していた(ということに新聞や雑誌なんかではなっていましたが、実際の関係は(あい)(まい)なものでした)人も私のあとに自ら出頭して逮捕されたこともあり、二人の関係や私と芸能人のつき合いの、芸能人のクスリ疑惑など、あることないこと(ほとんどないことでしたが)書かれていたといいます。


 ――なんでこんなありもしないことを書くんだろう……。


 正直、そう思いました。それが執行猶予で出てきた私を苦しめる一因になったのも事実です。


 それだけが原因ではなかったのですが、私は(おろ)かなことに、再び薬物に手を出し、すぐに二度目の逮捕をされてしまいます。


 もう言い訳も言い逃れもできない。世間は骨の(ずい)まで私がドラッグに汚染されていると思ったことでしょう。でも、それは違う。そう叫びたい気持ちを押し殺しながら、刑務所を出てから静かに暮らしていました。


 でも、このまま誤解されっぱなしなのは、やっぱりこれから自分が前に進んでいくためによくないな、と時が経つうちに思うようになりました。


 なぜ、私はドラッグに頼ってしまったのか。そして、いろいろ報道されてきましたが、本当は何があったのか。それをお伝えするために、一度、丸裸になろうと決意しました。


 


 それから、私と同じように苦しんでいる女の子たちに伝えたいことがあります。


 私自身、確かに違法な薬物に手を出し、人の道から外れた行ないをしてしまったことは消すことのできない()しき過去であり、一生背負っていかなければならない(あやま)ちであると思っています。


 だから、偉そうなことをいうつもりはまったくありません。


 ただ、伝えたいことがあります。それを冒頭の「悩めるすべての人へ」に書かせてもらいました。


 


 大好きな人に捨てられて自暴自棄になっているとき、ずっと追いかけていた夢がやぶれて途方に暮れているとき、信じていた友達から裏切られて立ち直れないとき……そんなときに薬物は、人の心に入り込んできます。


 愛する彼氏が薬物に手を出していて「お前もヤレよ」といわれても、ずっと一緒にいる友達から「()せるから試してみなよ」といわれても、絶対に手を出してはいけません。私のような取り返しのつかない過ちを犯してほしくないんです。


 


 この本のタイトルに「依存症」とつけたのは、ドラッグへの依存という意味だけではありません。家族に、その時々の彼氏に、そして友達に、仕事に……私は依存してしまう体質だということを、逮捕されて刑務所で過ごすうちに自覚していきました。


 自分自身の半生を思い起こし、そう感じたときに、本を書いて、それを読んでもらって、「私のようにならないで」、「反面教師にして」、という思いに突き動かされていました。


 あまり上手に言葉で表現できていないかもしれません。読み苦しいところがあるかと思います。でも、少しの間、おつき合いいただければ嬉しいです。


  

2012年11月        倖田梨紗(菊地有紗)

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