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流されて四十年 〜マツコの半生略歴 A面〜

『デラックスじゃない』
[著]マツコ・デラックス [発行]_双葉社


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仕事をとったらアタシにはもう何もないの


 

「ここんとこ、仕事してたか、メシ食ってたか、お風呂入ってたか、ウンコしてたか、寝てただけ。それ以外、な~んにもしていないわ……」、こんなフレーズが口癖になっちゃったわね。でも、ホント、そうなの。恋愛なんか、今世紀に入ってから、してないわ。


 男もいないし、お酒もやらない。付き合いで少し飲むだけ。ホントに恥ずかしい話なんだけど、楽しいこと、何もないの。ここ数年、「ああ生きていてよかった」とか「楽しいな」なんて思うこと、何にもないのよ。


 その辺を歩いているお兄ちゃん、お姉ちゃんのほうが、よっぽど華やかな生活しているわよ。芸能人なんか、ちっとも派手じゃないわ。アタシの周りは、みんな、健気に生きているわよ。一部にドンチャン騒ぎしている連中はいるけど、でも、それは芸能人でなくてもいるじゃん。アタシはもっと惨め。


 かといって、何か趣味があるわけでもないの。「あと1週間、我慢したら、楽しみが待っているから頑張るわ」ってことがないのよ。番組の収録は、できるだけいっぺんに固めてもらうようにして、10日ぐらい一気に働き、休みがチラホラというスケジュールなんだけど、その休みに何かしようってこともない。


 くりぃむしちゅーの有田哲平さんは、遊びの時間を作っておかないと仕事ができないタイプ。海外カジノ旅行やプロレス、ゲーム……と多趣味の人で、ホント、羨ましい。アタシはどちらかといったら、上田晋也さんに近いんだよね。働くだけ。ワーカホリックじゃないけど、やることがないの。趣味がないの。どうしたら、趣味を持つことができるの?


 今度、誰かにヘラブナ釣りに連れていってもらおうかな。もしかしたら、「ワー、ヘラブナって最高」と思うかもしれないじゃん。松方弘樹さんみたいな大掛かりなカジキマグロ釣りは向いていないけど、ヘラブナならイケるかなって思っているの。ダメかなぁ? やっぱ、やる前から心配。


 となると、結局、仕事だけね。アタシから仕事をとったら、もう何もないの。生きるということは、働くこと。毎日、淡々と労働しましょう。こういう心づもりよ。古いタイプの日本のサラリーマンみたいね。オヤジだわぁ。


 

会ったことのない人も支えてくれていると思うと手が抜けない


 仕事には達成感があるでしょ。「うわ、終わった」っていう喜びがあるの。それを感じるだけで幸せだと思う。「働けることが幸せ」と思えるようになったのよね。日々、労働に勤しむのが人生ってものよ。


 基本的に怠け者のアタシが頑張ることができるのは、「きょうはダルいから行きたくない」なんて逃げちゃうと、いろんな人に迷惑がかかるから。逃げたとき、頭に思い浮かぶのは、テレビ局のおエライさんから怒られる事務所の社長の姿だけじゃない。


 テレビ番組って、収録のときにアタシの周りにいる人たちだけで作っているわけじゃないよね。収録したものを寝ないで編集している人がいるし、番組をスポンサーに売るために汗かきながら営業する人もいる。こういった会ったこともない人たちも、何らかの形で携わっているのかと思ったら、「ああ、逃げられないな。手は抜けないな」と思うんだよね。


 逆に、会ったことのある人は、意外とハードルは低いの。たとえ手を抜いても、「ま、いいか」とか「ごめんね」って言えるでしょ。だけど、会ったことのない人が、アタシの関わっている番組を陰で支えているって考えると、なんか申し訳ない気持ちが芽生えてくるんだよね。そういうときは、懸命に仕事するしかないの。手を抜けないの。意外でしょ。


 でも、これってアタシだけじゃないよね。仕事をしている人は、きっとみんなそうだと思う。自分の会ったことのない人がプロジェクトに加担しているわけよ。


 

流れに身を投じてきた結果がいま。人生その繰り返しだった


 流れに身を任せ、流れついた先で本気を出せばいい。これがアタシの信条。流れついた場所が居心地悪かったとしても、そこでできる限りのことをしていれば、いい風が吹いて、誰かが別の場所に引っ張ってくれる――。こういうことよ。


 これまで、いろんなところに流されたんだけど、流された先々で精一杯やったわ。その結果、意外な人から道を切り拓いていただいて、とんでもなくおもしろそうなところに流されたりもしたの。


 アタシって、自分の意志を貫いて、いまのポジションまできたって思われがちだけど、けっこう他力本願のところがあるのよ。流されるままに自分を泳がせ、結果としてこのような形になったの。


 当初、テレビには出るつもりもなかったんだけど、流れに身を任せるままに生きてきたら、いまみたいな状況になったの。ある意味、惰性よね。なりゆきなの。本能に逆らわずに流れに身を投じて生きてきた結果、自然とこうなったのよ。人生、その繰り返しだったね。


 

子どもらしくないうえにデブでゲイ。もう、抗っても仕方ない!


 子ども時代は、ヘンな表現になっちゃうけど、周りのゲームやファミコンをしている子たちのこと、子ども扱いしていたの。友達と遊んでいても、全然楽しくなかった。だからって、仲間外れにはならない。話がおもしろいからか、優等生も不良たちも、みんな集まってきた。でも、楽しくはないの。ま、みんなと違って、変なのは自分のほうだという思いはずっとあったけどね。


 それで、小学校5年生のとき、なんか学校に行くのが嫌になって、ちょっとの間だけど、本能の赴くまま、登校拒否した時期があるの。当時からポッチャリ体型だったわね。女の子のことを好きになれないことも自覚していた。子どもっぽくないことに加えて、デブでゲイ。本来なら、思春期は大いに悩んでいたはずよね。でも、中学生のころだったかな。「もうこうなったら、なるようになれ! 抗っても仕方ない!!」なんて思っている自分がいたね。


 高校を卒業して、美容学校に通っていた1990年代の初めごろは、作家の伏見憲明さんらがゲイ・ムーブメントに影響を与えていたの。テレビで同性愛問題について、独自の見解を主張していたの。こんな世界があるんだって、そのとき初めて知った。いわゆるアカデミックなゲイブームね。


 ゲイの雑誌も『薔薇族』や『さぶ』が代表的だったころに、『019.pngdi(バディ) 』などゲイのライフスタイルや主張を打ち出すものも出てきた。それこそ、引き寄せられるように『B019.pngdi』の編集部に行って、アルバイトから編集者生活をスタートさせたの。5年ぐらいいたかな。でも、人間関係がうまくいかなくなって辞めてしまったの。


 

もぬけの殻から「書く人間」へ、そして通りすがりにテレビ出演


 で、実家へ戻って、約2年間、引きこもり状態だった。そんなとき、中村うさぎさんから「会いたい」という連絡をいただいた。何でも、『B019.pngdi』を読んでアタシの存在を知って、おもしろいと思ったらしいの。


 やっぱり、流れついた先で精一杯やっていると、見ている人は見てくれているんだね。うさぎさんはご自身の対談集の相手の1人に、まったく無名だったアタシを抜擢してくれたのよ。そのとき、うさぎさんから「アンタは書くべき人間だ」と言われ、もぬけの殻状態だったアタシは、コラムニストとしてデビューできたわけ。


 今度は、うさぎさんが手を差し伸べてくれた流れに、わが身を投じてみようと思ったの。もちろん、最初はまったく食えなかった。ドラァグクイーンとしてクラブに出演して小遣い稼ぎをしたり、消費者金融からカネを借りたりして過ごしていた。


 そのうち、今度は『週刊女性』から連載の声がかかり、2005年からは『5時に夢中!』(TOKYO MX)、2006年には『ピンポン!』(TBS系)にも出演するようになったというわけ。本職のタレントさんとは違って、流されるまま、「通りすがり」にテレビの世界に寄ったようなものね。


 

魂を売り、時々意地を張り、それでもいつかは突き落とされる


 ずっと居場所のない人間だったから、テレビ番組という居場所ができたことは、すっごくありがたかった。ただ、どんどんキー局の番組に出演する機会が増えて思ったのは、やっぱりパイが大きくなればなるほど、自分が考えていること、しゃべりたいことの半分も主張できてないってことなのよね。


 テレビに出るのは、ある意味、魂を売ることなんだね。観る人が増えれば、それだけバラまく魂の量も増える。長いモノにどんどん巻かれていくってこと。やりたいことだけやってるわけにはいかない。サービスをしなきゃならないの。


 さすがにアタシのポリシーとまったく違うことはやらないけど、おまんま食べさせてもらっているんだから、メディアの要望に応えるのは、当たり前のこと。要するに、電波芸者なの。お呼びがかかったら、お酌をして、お客さんを喜ばせて、またお呼びがかかるのを待つの。別名、マスメディアの犬ね。


 意地を張るのは、「ここぞ」というときだけで十分。それ以外のことで意地を張っても仕方ないじゃん。自由に言いたいことをしゃべっているわけじゃないの。逆に、自分は、ものすごく弱い人間って自覚している。それを隠したいがために、虚勢を張っているの。見栄ね。


 どっちにしろ、いまの人気なんか一過性よ。いつかハシゴを外されることは目に見えている。アタシが世に出てきた当初、中村うさぎさんがこんなことを言っていた。

「アンタは世の中の不平不満を集めた代表者として神輿に乗せられたのよ。みんなが神輿を担いでいるときはいいけど、その流れが少しでも変わったら、突き落とされたとき、大怪我をするよ。そのくらいの高さまで持ち上げられてんだよ。突き落とされてもヘコたれないだけの精神力を持ってなさい」って。肝に銘じます。


 

待っているのは孤独死か老人ホームね


 以前、ちょっと身体の調子が悪くて、MRI(磁気共鳴画像)で検査をしたら、そこに映った影がガンにそっくりだったの。結果的には違っていたんだけど、お医者さんから「ガンかもしれません」って言われたときには、「死」という言葉が浮かんだね。そのときに思ったのよ。いつかは、孤独死するんだろうなって。もし長生きした場合は、老人ホームのお世話になるのね。ということで、魂を売るような仕事をどんどんこなしてカネを稼ぎ、老人ホーム代に充てようかな。


 お金ってこういうとき、大事なのよね。若いときは「1人でどうにか生きていくから、そんなのいらないわ」って思っていた。でも、40歳も過ぎてくると、老後はシモの世話をしてもらうのにも、お金が必要なことが現実味を帯びてくるの。


 もし、パートナーがいたとしても、アタシがボケたら、カネだけ持って逃げるんだろうな。確実よ。パートナーなんかよりも、お金で解決してくれるヘルパーさんのほうが、よっぽど信用できる。愛とか恋なんか、まったく信用できない。


 嗚呼、生命保険のコース、替えたくなっちゃった。いったい、誰がアタシの流したウンコをふいてくれるのよ。悩みどころね。なんか気弱になっているきょうこのごろです。

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