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編集者マツコの全力疾走 〜ゲイの闘いIN高知〜

『デラックスじゃない』
[著]マツコ・デラックス [発行]_双葉社


読了目安時間:8分
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中学時代のマラソンはビリじゃなかったわよ


 体重140㎏、B140W140H140……というトンでもないデブなアタシだって、小中高校時代は体育の時間に走っていたのよ。信じられないかもしれないけど、ちゃんと10㎞の持久走なんてのもやらされていた。


 通っていた中学は、住宅街のド真ん中にあったから、周りには走るコースなんてないの。ただグラウンドを延々と走らされる。1周400mで25周。これがまた、つまんないのよ~。何を目標に走ればいいのか分かんないの。もう地獄よ。でも、ホントに意外なことなんだけど、アタシ、ビリじゃなかったのよ。


 もちろん、もともと運動能力的に優れているわけじゃないし、やる気もまったくなかったから、ダラダラ・チームのほうにいて、順位も下から数えたほうが早かったんだけどね。でも、そんなアタシよりも、さらにダラダラしていた連中がいたのよ。「えっ、アタシ、ビリじゃないの? このままゴールしちゃって、いいの?」なんて思ったわね。どっちにしろ、ゴールで待っている体育の先生から「オマエら、ふざけんな! 本気で走れ!!」って怒鳴られるタイプではあったけど。


 そんなンだから、いわゆる“長距離ランナーの孤独”みたいなことはまったく感じなかった。で、その後、久しく走っていなかったの。だいたい、走る必要すら感じなかったの。ただ、大人になってから、1回だけ、全力疾走したことがあるのよ。場所はなんと、羽田空港のバカ長い出発ロビーよ。


 

羽田空港で本物の地獄を見た!


 1990年代の後半だったかな。アタシが『019.pngdi(バディ)』というゲイ向け総合情報誌の編集者をやっていたとき、取材で高知に行くことがあったの。そのころ、羽田からの高知便は1日に4本程度しかなかった。なのに、寝坊しちゃったのよ~。一緒に行くヤツから「何、してるんだッ!」と電話がかかってきて、「ヤバイ」って即、起きたわね。で、猛スピードで着替えて、もうタクシーじゃ時間が読めないと思ったから、電車を乗り継いで新宿から羽田に向かったの。その間、もう顔は真っ青で冷や汗がどんどん出てくる。


 京浜急行の駅を降りたら、改札のところにグラウンドホステスが待っているのよ。このお姉ちゃん、もッのすごい顔をしていたの。まさに鬼の形相。飛行機で待っている人と交信しているらしいんだけど、「今、きた」なんて声がアタシにも聞こえてくるの。敬語なんて、一切使わない。そして、ニコリともせず、アタシに「走ってください」と淡々と、かつ冷たい口調で言うの。さすがにアタシも、「この女、本心から怒っているな」と思ったわね。さらに、別のお姉ちゃんも出てきて、「荷物、預かります」と、これまた怖い顔と冷たい声。


 高知便って、羽田空港の中でもいちばんハシからシャトルバスに乗るのよ。そのハシッコまで、お姉ちゃんたちは「走れッ!」「走れッ!!」という感じで急かすの。動く歩道なんて、乗らせてくれない。もうお姉ちゃんったら、パンプス履いているのに、アタシより走るのが速いのよ。「早く行ってください!」と叫びながら、さらにすごい形相。でも、どんなに怒鳴られたって仕方ないの。だって、京急の改札を出た時間が、飛行機の離陸予定時間だったんだからね……。もう何も言い返せないわ。ホントの地獄ってこれだな、と思ったわ。


 真夏だから、もう汗はダラダラ。全力疾走を促されて息はハアハア、心臓はバクバク。お腹の汗が、足まで伝わってくるの。それを見て、羽田空港にいた乗客や空港職員たちは笑っていたんだろうけど、もうアタシにはそんな風景すら見えない。周りは何も見えない。死ぬかと思ったわ。


 やっと飛行機に着いてからも、さらに地獄は続いた。汗をダラダラにしたデブが入ってきたのを見て、乗客の皆さんは全員、「オレたちを待たせたのはコイツか」という顔でニラみつけているの。居たたまれなかったわね。


 でも、それ以上に居たたまれなかったのは、一緒に行く同僚だったかもしれない。アタシが到着するまで、飛行機を止めて、皆さんに待ってもらっていたんだからね。「もうきますから」「もうきますから」って、平身低頭で謝っても、誰も許してくれないことは想像できる。そいつがいちばん大変だったのよね。「マツコね、アンタも辛かっただろうけど、オレ(そいつはオネエ言葉使わないヤツなの)、これまでの人生で、あんな針のムシロに座ったこと、なかったよ」と言われたわ。


 

視線を越え、いざ“オカマ・サミット”へ!


 いま、思い出したけど、あの旅は初めから終わりまでツイてなかったの。だって、帰りは台風が直撃して、飛行機が全面運休だったのよ。こうなったら、陸路で帰ろうと思って高知駅まで行ったら、今度は土讃線が土砂崩れで止まってしまって、高知市に立ち往生。アタシたちだけじゃなく、オカマたち百何十人が、み~んな高知市で孤立しちゃったのよ。もう駅も空港もパニックだったわ。


 そのとき、なぜ高知市にオカマが集まったかというと――。


 高知でオカマの会議みたいなのがあったのよ。いわゆる“オカマ・サミット”。当時、1990年代の中期から後半にかけて、一瞬だけど、「社会学の一環としてゲイを語りましょう」みたいな時代があったのよ。いろんな大学で社会学者の宮台真司さんとかがシンポジウムを開いて、「性」をアカデミックに語る、みたいなことが流行っていたの。このときも、たぶん高知大学がからんでいたような気がする。で、ゲイの総合雑誌『B019.pngdi』としても、取材に行ったわけ。編集長がどっちかというと、そういうことが好き系の人だったからね。


 

差別されない日本のゲイは守られることもない


 アタシ、こういった講座を聴いていて、日本のゲイカルチャーはダメかなと思ったことがあるの。日本に西欧的なゲイの価値観とかが入ってきたとき、たぶん日本でゲイは差別されていなかったのよね。要は、キリスト教の国ってゲイは差別されるじゃん? だから、差別と闘うという構図が、社会におけるゲイのポジションを作ってきたのよ。で、ゲイはその闘いを勝ち取ってきた。


 さらに、ゲイという人種は人口のある程度を占めていて、しかも女房子どもを育てなくていいから、富裕層が多いわけ。だから、市場的にも優れている、ということを分かっている。結構な高額商品も、一般の同世代の男性より購入率が高いというデータもちゃんと出ているの。だって、アメリカなんか、ゲイ用の広告をトヨタといった大企業が作るくらいなんだから。保険会社もゲイ用のプランを考えるぐらい。ゲイ用の商品を作っているだけじゃないのよ。アメリカの大統領選のときだって、「ゲイのためにこんな政策をします」とゲイ用の演説をするからね。ちゃんと票田にもなっているって自覚が政治家にもあるの。


 そういう流れに、日本もなるかなと思ったら……。ま、ならないわね。快楽的なところしか、取り入れてない。いわゆる政治的な部分だったり、社会におけるゲイとは何ぞやというところが一切語られないまま、きたのよ。要は、差別されていないのよ。差別されているからこそ、自分たちに力をつけなくてはいけないという危機感が、運動をいざなっているわけじゃん。


 だから、日本はタイみたいになるしかないんだなって思ったわ。なし崩しで。なぁなぁにして、みんな、仲良く生きていきましょうって。でも、法律では、一切守られていないし、ゲイ向けの何か特別な扱いをされるわけでもない。究極的には、いても、いなくても、変わらないのよ。日本って、大昔は性に寛容だったのにねぇ。


 

あのころは都内だけじゃなくて日本各地を回っていたわ


 ――ということで、高知市に閉じこめられたアタシたち。確か、早く東京に帰らなくちゃいけない用があったんだと思う。バスが臨時便出すって聞いて、今度はバスで大阪まで行こうと思ったの。でも、もうバスも長蛇の列で、コレ、諦めようって、泊まるしかなかった。


 それからがまた大変だったのよ。み~んな帰ろうとしているから、早朝から並ぶしかないと思った。朝、3時に起きて、ホテルからタクシーで4時には高知空港に着いて、それから順番待ちよ。で、アタシたちはやっと帰れたんだけど、立ち往生していたオカマたちの多くは、結局、その日の便でも帰れなくて、もう1泊したんだって。その3日間の高知駅や高知空港のオカマ密度は新宿2丁目に匹敵していたかもしれないわね。


 アタシ、あのころ、日本中を回ったけど、アクセスの悪さに関しては、高知はトップ3に入ったわよ。もう飛行機がなかったら、どうするの。だいたい、「土讃線」って何よ。土佐の「土」に讃岐の「讃」をつけたって、あまりにも単純じゃないの。まだ「予讃線」はかわいいとこあるけど、土讃線って何よ!!

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