読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

犬耳書店はRenta!へ統合いたします

(2021/11/26 追記)

犬耳書店の作品をRenta!に順次移行します。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

0
-1
kiji
0
1
1073145
0
孫正義秘録
2
0
2
0
0
0
0
ビジネス
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
二〇万人の部下を率いる男

『孫正義秘録』
[著]大下英治 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:7分
この記事が役に立った
2
| |
文字サイズ


 ソフトバンクグループを率いる孫正義が、中国に進出する手引きをしたのは、孫がカリフォルニア大学バークレー校の学生時代に設立した「ユニソン・ワールド」でパートナーであったホン・ルーである。一九九五年にユニテック・テレコムへ資本参加し、中国での通信ネットワークビジネスに進出したのである。二○○○年には、ベンチャーキャピタルの香港現地法人「ソフトバンク・チャイナ・ファンド」を設立した。


 そのころ、日本企業も中国に進出はしていたものの、中国への見方は微妙であった。政治的にも安定していない。商慣行も整備されていない。それらの不安感が拭いきれないうえに、当時の日本企業に共通する、「日本は世界第二位の経済大国」との誇りが進出の障害となっていた。


 だが、孫は、信じて疑わなかった。

〈世界一の人口を誇る中国を制することこそ世界一の絶対条件となる〉


 一九九五年にYahoo!の設立によって本格的に開花したインターネット時代は、当初、その中心はアメリカであった。孫も、その軸足をアメリカに置いていた。


 しかし、アジアに目を移せば、人口は世界の三分の二にあたる。そこでインターネットが広がれば、どうなるか。ことに、鄧小平による改革開放以後、目を見張る経済成長をとげる中国で拡大戦略をとれば、インターネット環境は様変わりする。インターネット人口比率で五〇を誇るアメリカは縮小し、中国が俄然、頭角をあらわす。それにともなって、マーケット動向も変わる。孫は、そのことを見据えて、中国で布石を打ちはじめた。


 まずは、ソフトバンク・チャイナ・ファンドの担当者が選び抜いた中国のIT関連企業経営者と会った。その数だけで数百人にもおよんだ。おのずと、人物を見る眼、企業の将来を見極める眼は、養われた。


 アリババ・ドット・コムCEOのジャック・マーは、そのうちのひとりであった。


 二〇〇〇年冬に、孫は、ジャック・マーと北京ではじめて顔を合わせた。それ以来、ジャック・マーには目を惹くものがあった。学生時代に、中道派学生運動のリーダーとして、日本の自衛隊とほぼ同数の、二〇万人という部下を率いた経験があるだけあって、黙っていても、細い体から、その魅力があふれ出ていた。


 ジャック・マーは、一九六四年九月一〇日、杭州で生まれた。杭州師範学院(現・杭州師範大学)を卒業後、一九八八年から七年間、杭州電子工学院英語学科および国際貿易学科講師を務めた。インターネットビジネスに転身したのは一九九五年で、中国初のインターネット上のビジネス情報掲載サイト「中国イエローページ(中国黄頁)」を創設した。その後、中国対外経済部貿易部国際電子ビジネスセンターに所属し、対外経済貿易部の公式サイト、中国ネット交易市場を開発した。


 一九九九年三月、資本金五〇万を元手に、杭州でアリババを設立し、アリババ・ドット・コムの運営をはじめた。


 ネット上に大規模なビジネス交流サイト建設を目指す杭州日中貿易の企業間取引ポータルサイトは、シリコンバレー、インターネット投資家から、インターネットの四つ目のビジネスモデルとして注目された。


 おかげで、ゴールドマン・サックスなどの投資家が五〇〇万ドルの投資金を導入。サイトの収入は一銭もなかったが、アリババブランドへの投資金は一日で一〇〇万元に達するという奇跡を成し遂げていた。


 自分のビジネスについて語るジャック・マーの話に耳をかたむけていた孫は、ほぼ五分ほどのところで制した。

「きみの話は、もういい」


 ジャック・マーの力強く響く声が、一瞬にしてかき消えた。それとともに、らんらんと光る目が、見開かれた。孫の言葉をどう受け止めるべきか、揺れていた。


 孫は、あえてゆっくりと語った。

「きみの話はいいから、資本を入れさせてくれ。それも、三五


 ジャック・マーの表情が、再び変わった。よろこびが広がった。


 孫は、志が大きく、狙っているものも大きいジャック・マーに投資することを即断即決した。二〇〇〇年一月、二〇〇〇万米ドル、日本円にして二〇億円を出資した。ジャック・マーが必要としていた資金の九〇にあたる額である。孫は、アリババ・ドット・コムの主席顧問となった。


 アリババ・ドット・コムへの出資から三年近く経ち、ジャック・マーが、当時中央区日本橋箱崎町にあったソフトバンク本社を訪れた。


 孫は、ジャック・マーに、かねてから思っていたことを口にした。

「きみのところは、BtoB(ビジネス間取引)で成功しているけど、それだけで満足しているのか。BtoC(企業消費者間取引)とか、CtoC(消費者間取引)をやらないと、本当に大きな成功はできないのではないの?」


 ジャック・マーは、うなずいた。

「たしかに、孫さんの言うとおりです」

「そうだろう。それなら、何でやらないんだ」

「いまはBtoBだけで手一杯ですし、資金もありません。いずれやろうと思いますが、そのタイミングは今ではありません」


 孫は、身を乗り出した。

「そうではないだろう。やるなら、今だ。必要な資金は、一〇〇うちが出す。CtoCに対して、経験もノウハウもないというのなら、その面でも協力しよう」


 孫が提示したのは、資金からノウハウ、人材、戦略に至るまですべて面倒を見る。その上で、成功すれば、利益は五〇ずつ分け合い、もしも失敗したならばソフトバンクですべてリスクを負う、という破格のジョイント・ベンチャーの提案であった。


 孫は、念を押した。

「これで、『やる』と言わなければ、男じゃないぞ。いますぐ返事をしてくれ」


 それからしばらく経って、孫は、何とも言えぬ気持ち悪さを抱えて、社長室のパソコンを前にしていた。さきほど社長室から出ていったジャック・マーのことがこびりついて離れないのであった。


 孫は、おもむろに携帯電話をとった。数コールのうちに、ジャック・マーが出た。


 孫は、いきなり言った。

「ちょっと、戻って来い」

「えっ、どういうことですか」


 ジャック・マーは、孫との話し合いを済ませ、成田国際空港にむかっている途中であった。その日のうちに、中国に帰国する予定にしていたのである。引き返せば、帰りは翌日に延期となる。孫も、そんなことはわかっていた。だが、ジャック・マーが納得しないまま帰すわけにはいかなかった。


 孫は、戻って来たジャック・マーに言った。

「きみは、さっき、生返事だった。本気でイエスと言っていなかった」

「……」


 言葉のないジャック・マーに、孫はたたみかけた。

「今、決めるのであれば、おれは、一〇〇出資する。嫌ならば、BtoC、CtoC事業を手掛けたいという別の者に渡すことにする。あとになって、『やりたい』と名乗り出ても手遅れになる。それでも、いいんだね」


 さすがのジャック・マーも、孫の気迫に押された。調印までには至らなかったものの、覚え書きを交わした。


 ジャック・マーは、二〇〇三年に入ると、タオバオ(淘宝)を設立した。ショッピング、オークションサイトサービス「タオバオ・ドット・コム(淘宝網)」は、二〇〇三年五月からはじまった。


 二〇〇九年段階で、タオバオの登録者数は、九八〇〇万人。二億九八〇〇万人と言われる中国のネット利用者数の三分の一にあたる。小売り売上は九九九億六〇〇〇万元(約一兆三二〇〇億円)。中国の小売売上高の〇・九に相当する。


 オークションを無料提供しているにもかかわらず、広告収入だけで黒字化を実現できた。オークションを有料化すれば、その収入は膨大なものとなるだろう。世界最大のオークションサイト「EBAY」並みに八の手数料を取れば、手数料収入だけでおよそ八〇〇〇億円もの利益となる。タオバオのオークションでの取引金額は、いずれ三兆円にまで伸び、五年以内には一〇兆円規模になる。


 それにともなって、七四〇〇万人が利用する、オークションなどの電子決済サイト「ALIPAY」も、必ずや利益を上げる。


 孫は、タオバオこそ、これまで投資した事業で最大のリターンをもたらすと見ている。


この記事は役に立ちましたか?

役に立った
2
残り:0文字/本文:3277文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次