[息子・尚弥]
飛行機が乱気流へ入るたびに、周りを見渡す父。それを見ていたら、なぜか自分の試合に対する緊張が和らいできて、僕はありがたかった。
アジア予選が行われるカザフスタンの首都アスタナへはソウル経由だった。そこで減量のため頰のこけきった須佐さんが「お前とはここでも合宿したよな」と、ふと口を開いた。
「俺はボクシングを始めたときから、年下に負けたら引退しようってずっと決めてたんだ。今までそんな選手は出てこなかったけど、お前とマスをしたときに、初めてコイツはすごいって思ったんだ。選考会でもお前の勢いに抵抗できる自信がなかった。