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小泉純一郎・進次郎秘録
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政治・社会
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小泉現象

『小泉純一郎・進次郎秘録』
[著]大下英治 [発行]イースト・プレス


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 平成一三年三月二七日午後、自民党の田中眞紀子(当時)と(ひら)(さわ)(かつ)(えい)は、議員会館の小泉の部屋を訪ね、三度目の自民党総裁選に出馬するよう要請した。田中はいった。

「このままだと、ゾッとするような出来レースの総裁選を橋本派にやられて、いつの間にか橋本さんが総理に決まってしまう。出馬するなら、応援する」


 平沢も、同調するかたちで出馬をうながした。

「(当時の)田中眞紀子人気も加えれば、勝機が出る」


 これに対し、小泉は苦笑いした。

「人寄せパンダとしては、(小泉・田中連合は)おもしろいかもしれないが、変人が二人そろって、どうするんだ」


 小泉は、そう述べて出馬要請をかわしたが、その後、動いた。


 四月六日、小泉は、秋田県内での講演で総裁選に立候補する考えを事実上、表明した。

「戦うときは、戦わないといけない」


 小泉は、険しい顔をほころばせていった。

「田中眞紀子さんが、『立つの? いつ立つの?』とヤイヤイいってくる。女性にいつ立つの? といわれましてもねえ……」


 場内がどっと沸く。笑いを抑え、小泉はふたたび厳しい表情にもどって、きっぱりといった。

「男だから、負けを恐れて立たないのは、卑怯といわれる。過去二度総裁選に立候補しているが、二度あることは三度あるかもしれない。身を捨ててやらねばと思っている。国民を失望させないような方策を考えていかなければならない」


 この小泉発言に対し、YKKの一人加藤派の加藤紘一会長は、この日の夜、早々と小泉支持を表明した。

「わたしは、小泉を支持する。多くの同志も応援する気持ちを持ってくれると思う」


 やはりYKKの一人、山崎派の山崎拓会長も、述べた。

「(小泉支持に回る可能性は)もちろんだ。(派内で)よく話し合って、決める」


 当時二回生の(おお)(むら)(ひで)(あき)(しん)(どう)(よし)(たか)、一回生の(かじ)(やま)(ひろ)()らは、橋本派の方針にしたがわず、独自の動きを見せた。


 橋本龍太郎は、四月一一日の橋本派運営幹事会で立候補を表明した。


 いっぽう、橋本派は、当初、森派を除く主流各派の支援を取りつければ、三四六の国会議員票の六割を固められると踏んでいた。だが、亀井静香の立候補という誤算に加え、一一日には橋本派に近い旧河本派も、河野グループの麻生太郎に推薦人を出すことにした。


 いっぽう、小泉は山崎、加藤両派とYKK戦線を組む。決選投票になれば情勢は無派閥や若手議員の行動次第で展開は読めなくなる。


 小泉が出馬を決めたとき、秘書の飯島勲は小泉に訊いた。

「党員名簿を、用意しますか」


 小泉は答えた。

「党員名簿は、いらない。街頭演説一本でいこう。チラシもつくらなくていい」


 飯島は実感した。

〈小泉さんは、余計なことはせず、聴衆の心に訴えかければいいと考えている。それでも勝てると踏んでいるのか〉


 従来の総裁選の必須アイテムは、党員名簿であった。自民党員は約二四〇万人で、党員名簿の値段は六〇〇万円であった。


 総裁候補の選対は、自分たちの秘書を総動員し、その虎の巻を頼りに支持を訴える文書を送付したり、電話作戦や面会作戦、いわゆるローラー作戦を展開する。これだけで億に近い選挙費用がかかる。


 飯島は、思い切って党員名簿を購入することをやめた。この前代未聞の事態に、小泉選対幹部の国会議員はカンカンになって怒った。

「なぜ、買わないんだ!」


 飯島は、ひたすら頭を下げた。

「すみません」


 幹部の中には、親切心でいってくれる人もいた。

「おれが持っている名簿を、貸そうか」


 それも、断った。

「ありがたいのですが、いりません」


 飯島がそこまで意固地になったのは、「この戦いは、党員名簿に頼るようでは負ける」という答えを導き出したからである。

〈街頭演説一本でいい。全国一億二〇〇〇万人の国民に、ひたすら真剣勝負で訴えかける。そうすれば、必ず津波のような大きな波が押し寄せるだろう。二四〇万党員を、一億二〇〇〇万人の波で飲み込んでしまうのだ〉


 街頭演説に時間を割くため、テレビ出演も極力控えた。テレビ討論会は、候補者が全員顔をそろえなければ行われない。必要最小限度、出るだけでいい。


 この戦略は、的中した。


 四月一三日金曜日、小泉の街頭演説が有楽町マリオン前で行われた。西に向かうキャラバン隊の出発地点であった。その数、なんと三〇〇〇人であった。小泉も、さすがにおどろいていた。

「今日は、人が多かったねえ」


 だが、この小泉現象ともいうべき社会現象は、ほんの序章に過ぎなかった。


 は、この日、マリオン前の現場にカメラマンを送った。が、筑紫哲也がキャスターを務める「NEWS23」は、記者を出さなかった。なぜなら、街頭演説に集まる聴衆の中に自民党員は何人もいない。初めのうちは、それほど重要視していなかったのである。


 ところが、取材から戻ったカメラマンが、筑紫に興奮した口調でいった。

「とにかく、すごい。ちょっと異常なくらい人が集まっている」


 カメラマンは、ポジションを変えながら撮影をしたい。が、聴衆のあまりの多さに身動きが取れず、ポジションを変えられないというのだ。


 聴衆が、それほど集まった背景にあるものは何か。テレビ報道は、小泉現象と無関係だとはいえない。が、小泉=テレビ報道だと単純に割り切れるものではない、と筑紫は思った。


 日本には、閉塞感がある。特に自民党的なものに対する不満が鬱積している。前年一一月の、いわゆる「加藤の乱」のときはインターネットを通していろいろな動きがあった。その動きが、このとき、ワッと出てきたのである。


 たとえば、テレビ局は、小泉が××日に××で街頭演説を行う、という個別の情報はほとんど提供していない。それにもかかわらず、あふれるばかりの聴衆が集まる。彼らは、インターネットで情報を得ているのである。


 小泉は、これまでに二度、総裁選に出馬している。前回の平成一〇年七月の総裁選では、小渕恵三、梶山静六と戦った。このときも、「NEWS23」に三人が出演し、討論会を行った。が、このような小泉現象は起こらなかった。前回と比べ、何が変わったのか。情報の伝達の仕方が“個”に移行しているのだ。


 携帯電話が、そのいい例である。


 四月一四日、大阪・(なん)()の繁華街で四候補が初めての共同街頭演説会を行った。


 小泉の秘書の飯島勲は、小泉に同行したスタッフから報告を受けた。

「小泉さんが演説を始めたとたん、まるでサッカーの試合のウェーブのように聴衆がウワーッと波を打ちました。ほかの三候補のときには、そんなことにはなりませんでしたよ」


 飯島は、胸を躍らせた。

〈もしかしたら、勝てるかもしれない〉


 飯島は、この総裁選を通して小泉の怖さをあらためて知った。小泉は、信念を懸命に訴えつづけた。その気迫は、これまで二度挑戦した総裁選をはるかに上回っていた。


 飯島は、ふと思った。

〈ひょっとしたら、自らの主張を訴えるだけ訴え、仮に自分が選択されなかったら、そのときは即座に国会議員を辞める覚悟じゃないか〉


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