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泣いて、病んで、でも笑って
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ルポ・エッセイ
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エピローグ

『泣いて、病んで、でも笑って』
[著]今井メロ [発行]_双葉社


読了目安時間:3分
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 夢露――。


 この珍しい名前は、父が私につけてくれた。

「かわいい名前だね」


 小さい頃から人に言われることもあったけど、私にはピンと来なかった。

「夢露、なにやってんだっ!」

「夢露、しっかりやれっ!!


 父の叱責の言葉の前には必ずと言っていいほど「夢露」。私にとって、名前は怒られている自分とセットになっているイメージがあり、一時は、その名から顔を背けたくなっていたほどだ。それに、字画がやたらと多いのもイヤだった。

「面倒臭いなぁ……。もっとやさしい漢字だったらよかったのに……」


 テストの答案用紙に名前を書くとき、いつも思っていた。


 名前の由来も子供の私にはよく理解できていなかった。

「夢はわかるんだけど、()? 露って何?」


 大きくなって「(つゆ)」の意味がわかるようになると、

「夢が露みたいに消える!? なんだかなぁ……」


 オリンピック出場が決まっていながら、私が父と決別したとき、ひょっとしたら、父は自嘲気味に同じことを考えていたのかな、とも思ったり。


 私には、父がこの名をつけてくれた真意がちっともわかっていなかったのだ。


 初めての女の子だった私に「夢露」と命名したのは、「一生懸命育てても、いつかは親元を巣立ってお嫁に行ってしまう」との思いがあったからだとのちに聞いた。父にとって「夢が露のように消えてしまう」には、そんな意味があったのだ。だからこそ、私が巣立つその日まで、父は父なりの方法で私を一生懸命育てようとしてくれたのだろう。今は、厳しさも激しさも、父なりの愛情表現だったんだと思えるようにもなっている。


 皮肉なことに、父の思いとは裏腹に、私は中途半端なところで父のもとを飛び出し、父の“夢”を“露”にしてしまった……。そして、生家とはすっかり疎遠になってしまったけれど、いろいろなところで迷惑だけはかけていることを心苦しくも感じている。

「私はひとりで生きている!」


 そう強がってはいても、実は、まったく自立できていない私。

「今度こそ、本当に自分の足で立って歩かなくちゃ」


 今、つくづくそう思う。それが実現した日が、私の名前に込めた父の思いが昇華するときだと思うから。


 自分が二人の子供の親になった今では、子供の名前に思いを託す親の気持ちがよくわかる。瑠偉と真里愛という名に私の思いを込めたように、父は父なりの思いを「夢露」という名に託してくれたのだ。


 父に、そして私を産んでくれた、育ててくれた、二人の母に感謝しながら。



 人生には、いろいろなことがある。いろいろな、と言ってしまえばそれだけだけど、その一つひとつは、ツラいこと、苦しいこと、悲しいこと……。正直、私も「もう死んじゃいたい」って本気で考えたことが何度もあった。


 でも、私はいまも、こうして生きている。


 私のそばには、命より大事な瑠偉がいて、真里愛がいる。そして、こんな私を支えてくれる人がいる。だから、生きていける。


 今回、自分の本を出す機会をもらって、これまで歩んできた道のりを初めて真正面から振り返った。なんてデコボコな道を歩いてきたんだろうって改めて思う。


 周りの人をいっぱい傷つけたし、私自身もいっぱい傷ついた。たくさん泣いて、たくさん病んだ。それでも、最後に笑ってきたから、いまがある。


 この本を手に取ってくれたあなたへ。本当にありがとう。


 私の生きてきた道を話すことが、あなたにとって何か意味があるのか、正直わからない。


 でも、ひとつだけ伝えられることがある。

「何があったとしても、最後には笑って」


 その先に、生きていく小さな光が見えるはずだから――。



 2012年9月

今井メロ
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