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最後のイタコ
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ルポ・エッセイ
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●イタコの世界は女の修羅場!?

『最後のイタコ』
[著]松田広子 [発行]扶桑社


読了目安時間:4分
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 イタコとして仕事を始めた当初は、念願が叶い私はとても幸せでした。

 ただひとつだけ、実際にイタコになってみると、想像と違っていたことがあります。

 それは、とても時間があったということです。実は、初めの1、2年は、お客さんがとても少なかったのです。

 当然、収入も少なくなります。もう社会人ですから、親からお小遣いをもらうわけにはいきません。仕事が軌道に乗るまでの数年間は、経済的にはとても苦しいものでした。

 勤め始めた友人たちは、お洒落や旅行など、楽しそうに過ごしています。でも私は、いつも同じくたびれたジャージ。遊びに誘われても、気軽に出かけることもできません。それ以前に、たまに遊びに出かけても、友人たちと次第に話が合わなくなっていました。

 もちろん、同じ年ごろの友だちとのおしゃべりは、楽しい時間でした。

 でも私は修行時代に、相談者の苦労話や身近な人を亡くした方のお話を、たくさん聞いてきました。

 どの方も、それなりの年月を生きてこられ、さまざまな思いを味わってこられた方たちです。思うようにならない人生や大切な人を亡くしたつらさ……。どの方も、自分が抱えている問題や亡き人への思いを切々と語られました。

 そんな方たちの話を、師匠のそばで毎日のように耳にしてきた私には、友だちが話す芸能人やお洒落の話題、恋愛の悩みごとなどは、とても子どもっぽく感じられてしまったのです。

 もちろん、話が合わなくなったとはいえ、友人たちはそれまでと同じように親しい遊び仲間であることに変わりはありません。それでも、同年代の友人たちとのギャップを感じるにつけ、自分がイタコという特殊な職業を選んだのだと、改めて思うのでした。

 駆け出しだったころを思い出すと、悶々(もんもん)としながらも、「イタコとして認められたい」「自立したい」と必死だった自分の姿がよみがえります。

 そんな私の願いを叶えてくれたのは、ほかでもない恐山でした。

 恐山では、短期間に大勢のお客さんの口寄せをします。19歳で恐山に上がり、私はやっと一人前のイタコになったという実感を味わいました。


 第2章で書いたとおり、最初の口寄せではしどろもどろだった私も、数日で恐山の雰囲気に慣れました。つたないなりに懸命に口寄せし、お客さんに喜んでもらえる満足感も味わいました。

 その恐山で私を困惑させたのは、仕事そのものの難しさや大変さではありませんでした。まだ慣れない私を困らせたのは、ひとつは膝の痛さ。そして、もうひとつは、お客さんの好奇の目です。

 口寄せの時は、ずっと正座です。お客さんが混んでくると足を崩して休憩する暇もありません。昼間は仕事に夢中なので痛みはまったく感じないのですが、夜になると我慢しきれないくらい痛み始めます。そんな時は、付き添いで来てくれていた祖母がずっとさすってくれました。それでも、こらえきれず「もう嫌だ。帰りたい」と泣いたこともありました。

 さらに私を悩ませたのが、若いイタコを珍しがってカメラやビデオで撮影するお客さんです。口寄せの最中に急にフラッシュを焚かれて、驚いたのは一度や二度ではありません。また、ビデオテープが回る音やカメラのシャッター音は、口寄せをしていても耳に入ってきて集中が途切れるので、いつもイライラさせられました。とうとう腹にすえかねて「見せ物でない!」と、手拭いを投げつけてしまったこともあります。

 今は、そんなことはまったく気にもなりませんが、当時はやはり過敏になっていたのでしょう。


 しかし私が「これは大変だなあ……」と一番感じたのは、先輩イタコとの共同生活でした。

 恐山では、イタコは専用のプレハブ小屋で雑魚寝(ざこね)します。

 高齢の先輩イタコたちは午後7時には布団に入り、夜中の2時ごろには、ごそごそと起き始めます。大祭の期間中は、早朝4時から口寄せが始まるため、仕方のない面もあるのですが、若かった私には、この生活サイクルはかなりの「苦行」でした。

 また、イタコは明るい性格の人が多いのですが、私も含めて皆、感受性が強く、感情の起伏が激しい面もあります。そんな人たちが一緒に生活し、同じ仕事をするのですから、時にはいざこざも起こります。

 もめ事が起きると、お互いの主張を譲らず激しく言い争う先輩たちを見て、「まるで、女の修羅場だ!」と、若い私は思いました。

 しかし今思えば、どの職場でもトラブルはつきものです。まして、特別な空間で特別な職業の女性たちが共同生活するのですから、衝突が起きるのも当然といえば当然でした。

 そんな経験を重ねながら、私のイタコ人生はゆっくりとスタートしていきました。

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