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危ういハイテク機とLCCの真実
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ルポ・エッセイ
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第1章 航空の安全の到達点と新たな課題

『危ういハイテク機とLCCの真実』
[著]杉江弘 [発行]扶桑社


読了目安時間:29分
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  航空機、空港管制等での技術革新


 人類が創り出した産業の中で、航空産業ほど短期間で飛躍的に発展したものはないだろう。航空の歴史はライト兄弟が初飛行(1903年)を果たしてから、まだ百年少々しか経っていない。しかし、この間の技術革新はすさまじく、航空機や空港設備、それに管制システムやシミュレーターの進歩による乗員の訓練向上などによって、短期間のうちに一大産業が築き上げられたのである。ジェット旅客機の登場もわずか約半世紀前の出来事であった。

 当初は英国製のコメットが何度か空中分解を起こしたりしたが、機体の改良ですぐにそれを克服し、続いてエンジンも安定した燃費のよいファンエンジンが次々に開発された。ナビゲーション分野ではコンピュータを使ったINS(慣性航法装置)が747から搭載されるようになり、ここに近代的ジェット旅客機の基礎が完成したのである。

 空港設備ではILS(計器着陸装置)が開発され、当初のCAT(カテゴリー)から現在ではCATの導入へと発展をとげている。これにより、霧などで視界の悪い悪天候の中でも着陸ができるようになった。管制システムではなんといってもレーダーの進化がある。当初は航空機の位置だけがわかる一次レーダーであったものが、現在では航空機の状態のほとんどが手に取るようにわかるようになった。加えて、MSAW(最小安全高度警報装置)やCNF(異常接近警報装置)といった機能をつけ加えることにより、CFIT(対地衝突事故)や空中衝突事故を防げるようにもなった。これもコンピュータによる技術革新によるものだ。

 そして、乗員の訓練向上に貢献しているものにシミュレーターの改良がある。当初は航空機を動かす手順を習得するだけのレベルであったが、今日では世界の空港の風景がデータベース化され、離着陸も実機とほぼ同じ感覚で行えるようになった。航空気象の分野でも、天候は自然現象で予測通りにならないことも多いが、航空の安全をサポートする上で、より正確に情報が提供されるようになったこともつけ加えておきたい。


  安全性に貢献する数々の装置の開発


 航空事故の歴史は、これまでに述べたような技術革新によって大きく変化することになる。以前には航空機はエンジントラブルや悪天候などが事故に直結することが多かったが、近年では、それらに代わってヒューマン・エラーが原因の大きな事故が多発するようになってきた(『全損事故の原因の比率』のグラフ参照)。そこで航空機メーカーはコンピュータソフトの開発にも着手し、ヒューマン・エラーを防止するための数々の安全装置をコクピットに搭載するようになった。

 その中で初めに登場したのが、これから説明するGPWS(対地接近警報装置)と呼ばれる画期的な装置だ。これは航空機が山や地表などに意図せず接近し、衝突の恐れがあると“ウー・ウープルアップ”などと大きなボイス音と警告灯が作動するシステムで、危険を知らされたパイロットは20度以上の機首上げ操作を行うことによって、衝突を回避しようとするものである。GPWSが開発された背景にはCFIT(シーフィット/Controlled Flight Into Terrain)と呼ばれる対地衝突事故が、全損事故による死亡者数の中でトップを占めるようになってきたことがある。CFITとは、航空機に何のトラブルもないのに人為的な原因によって山や地表に激突する事故で、パイロットの不注意や管制官の誘導ミスなどによってひき起こされる、典型的なヒューマン・エラーによる事故形態だ。日本では1971年に函館空港への進入中に起きた旧東亜国内航空のYS11による「ばんだい号」事故がこれに当たる。このGPWSはアメリカで1975年以後、民間旅客機に装備することが義務づけられ、その結果CFITを大幅に減少させることに成功した。



 しかし、山や障害物などがない場所でも警報が鳴る誤作動が頻発したため、パイロットが回避操作をとらず、そのまま山に衝突する事故が世界で相次いだ。1992年にネパールのカトマンズ空港に進入していたタイ航空のエアバス機が誤ってヒマラヤ山系に接近し、GPWSが鳴ったのに機長は誤作動と判断し、そのまま山に衝突して全員が死亡したのがその一例だ。だが、当該機が仮に即座に急上昇したとしても、ヒマラヤ山系は標高が高い上に切り立った地形なので回避は不可能であった。

 そこで航空界では、この事故を教訓として、仮に切り立った高い山に接近しても回避が可能となる新しいソフトを開発した。それが改良型のEGPWS(機能向上型地上接近警報装置)で、今日のハイテク機では標準装備となっている。EGPWSはGPS(全地球測位システム)を使って世界中の地形をデータベースとして組み入れ、どんな高い山でも衝突の約17秒前までにパイロットが警報に従ってゴーアランド(急上昇)をすれば回避できるというシステムである。

 EGPWSは山や地表との衝突のみならず、機がILS進入のグライドスロープ(電波による降下角信号)から大きく外れるなど、離着陸時に安全な飛行状況から逸脱すると、パイロットに警告を与える多くの機能を持っている。いわば安全運航上、最後の砦の役割を果たす極めて重要なシステムと言えるものだ。
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