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リトル・ピアニスト 牛田智大
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『リトル・ピアニスト 牛田智大』
[著]伊熊よし子 [写真]能登直 [発行]扶桑社


読了目安時間:4分
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「もう、録音すべて終わっちゃったんですよ」

 2012年1月19日、牛田智大の録音会場である東京・Hakuju Hallに駆けつけた私に、彼は開口一番こう告げた。
「えっ、全部終わっちゃったの?」
「愛の夢〜牛田智大デビュー」のレコーディングは、1月17日から行われていた。しかし、仕事の都合で3日目にようやく会場に足を運ぶことができた私は、「すべて終わった」と聞き、愕然とした。

 常に思っていることだが、若手アーティストのデビューCDのライナーノーツを書くことは、無上の喜びである。3月14日にユニバーサルからデビューを果たす12歳のピアニスト、牛田智大のライナーノーツの依頼を受けたときも、心が高鳴る思いがした。

 彼は2011年10月にテレビ番組「題名のない音楽会」に出演した後、大ブレイクした話題のピアニストだ。そのデビューCDの原稿を書くことになり、録音現場で演奏を聴くことになっていた。

 事前にあらゆる資料や写真を見せてもらっていたのだが、実際にご本人に会ってびっくり。とても礼儀正しくしっかりしていて、話し方も大人っぽい。すでに一人前のアーティストの雰囲気をただよわせている。

 終わったと聞いて茫然としている私に、牛田智大はキュートな笑顔を見せながら言った。
「でも、伊熊さんにぜひ演奏を聴いていただきたいと思い、ずっと待っていたんです。これから聴いていただけますか」

 ああ、なんという健気な、やさしいことば。私は急いでホールに入り、指先が見える位置にすわった。

 牛田智大は3曲ほど立て続けに演奏した。12歳とはいえ、子どもっぽい演奏ではない。響きがクリアで美しく、タッチはやわらかく陰影に富み、難度の高い箇所も自然に奏でられ、リズムは生き生きと躍動し、しかもレガートが傑出している。いずれの作品も存分に弾き込んでいるためか、完全に自分の音楽になっている。

 終わると、彼は私に向かって深々とおじぎをした。それと同時に、私は席を蹴立ててステージまで飛んでいった。
「ありがとう、牛田くん。すばらしかったわ!」

 それから楽譜を見ながらいろいろ音楽的な質問をし、それに対して彼は当意即妙の答えを返してくれた。

 録音はどうだった、と聞く私に、彼はちょっと困惑した表情を見せた。
「初めての録音だから、すごく緊張しちゃって……」

 それは、そうでしょう。でも、落ち着いて自分のもてる最高のものを表現している様子は十分に伝わり、私はいま聴いたばかりの演奏の余韻に浸っていた。

 これまで幾度となく内外で録音取材をしてきた。若手演奏家もあれば、ベテランの音楽家の場合もある。だが、録音が終了した後に、そのアーティストが私のために演奏をしてくれた、という経験はない。

 私はひとりホールで、これから大海原にこぎ出そうとしている若きピアニストの演奏に集中して耳を傾け、至福のときを味わった。


 牛田智大との出会いはこうして始まった。以来、何度かインタビューを行い、さまざまな雑誌や新聞などに記事を書いてきた。

 そして今回、彼の13年間の歩みを綴る本を書くというチャンスに恵まれた。最初の出会いから1年数か月、彼の成長を見守り、演奏を聴き続け、取材を重ねてきた。

 ここではひとりのピアニスト、ひとりの人間としての牛田智大を等身大で描いている。誇張や装飾や創作はいっさいなし。彼のありのままの姿を伝えたいと思い、率直にすべてを綴った。そこから「牛田智大の音楽」が浮かび上がり、演奏を聴きたい、と思っていただけたら幸いである。

 さあ、“牛田智大ワールド”の扉を開け、スッとなかに入りましょう。きっと心がほんわかと温まり、自然に笑顔になり、音楽に身を委ねたくなりますよ。











































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