ところが、2か月くらい経過すると、こう言われた。
「もっとちゃんとした先生に習ったほうがいいですよ」
もちろん、陳先生も音楽大学卒業の確かな経歴をもつ人だったのだが、より高いレベルの先生に教えを請うべきだと助言された。そして彼の紹介で、上海音楽学院教授・ピアノ学科長を務めていた鄭曙星先生を訪ねることになった。
この先生のもとには、中国各地から飛行機や電車を乗り継いで駆けつけ、レッスンを受けたいと所望する生徒があとを絶たない。彼らは親とともに先生のもとに出向き、弟子入りできるまで玄関で粘る。そんな人気の高い先生だった。
母親は、まだ3歳で、バイエルを弾いているような子が果たして受け入れてもらえるのかと心配になったが、鄭先生は智大の弾くバッハのメヌエットを聴き、「この子は音楽性をもっている」と即座に教えることを承諾してくれた。