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(2021/11/26 追記)

犬耳書店の作品をRenta!に順次移行します。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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隠された貧困
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政治・社会
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はじめに

『隠された貧困』
[著]大山典宏 [発行]扶桑社


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「僕は見えない人間である。……僕の姿が見えないのは、単に人が僕を見ないだけのことだから、その点をわかってほしい」

ラルフ・エリスン『見えない人間』



 それまでごく普通に接していた人に無視され、いないものとされるのは辛いことです。ある日を境に急に態度がよそよそしくなり、声をかけても知らないふりをされる。しかも挨拶をしないのが、たんに相手が自分に気づかなかったためではなく、気づいているのに返事をしないのだとしたら……。


 社会の中でマイノリティとされ、「なかったこと」にされる人たちがいます。


 経済的に苦しい状態にありながら、声を出せない人たち。その姿は人々の目に触れないよう、巧妙に隠されています。


 児童養護施設出身者、薬物依存者、高齢犯罪者、外国人、ホームレス。皆さんはこうした言葉を聞いてどんなイメージを持つでしょうか。おそらく、暗く、陰湿で、嫌なイメージが頭に浮かぶのではないでしょうか。

「そういう話は聞きたくない」


 もう、一〇年ほど前のことになるでしょうか。飲み会の席で、自分がどんな仕事をしているのかといった話になったときに、古い友人から返ってきた言葉です。たしかに、楽しい飲み会の席ではふさわしくない話題です。そうだよね、といって話題を変えました。


 当時、私は地方の市役所で、生活保護のケースワーカーというちょっと変わった仕事をしていました。「ネットカフェ難民」が流行語大賞となり、「日比谷年越し派遣村」が開かれる何年か前のことです。生活保護は役所の片隅で細々とやっている地味な仕事で、そこで暮らす人たちのことは、ほとんど話題にものぼりませんでした。

「日本には貧困はない」、時の大臣がそう宣言した時代です。


 それから時が経ち、日本で貧困が広がりつつあることは、誰の目にも明らかになってきています。働く人の三人に一人が身分の不安定な非正規雇用で、景気の悪化や自身の病気であっという間に生活の(かて)を失ってしまうのが現状です。子どもたちの六人に一人は相対的貧困状態にあり、「子どもの貧困」への対策を求める法律も成立しました。


 新聞やテレビ番組でも、次々と厳しい生活で苦しむ人たちを取り上げます。


 職を失い路上に放り出された若者。


 ダブルワーク、トリプルワークでボロボロになって働く母親。


 教員をしながら生活保護を利用せざるを得ないワーキングプアの非常勤公務員。


 誰もが共感する、頑張ったけど、そして、今も頑張っているけれど、それでも貧困から抜け出せない、かわいそうな人たちです。


 私は、社会福祉の専門職として、生活保護や児童福祉の分野でキャリアを積んできました。「貧困問題のプロフェッショナル」でありたいと願い、日本における貧困の現状をより多くの人に知ってもらおうと、新聞記者やテレビ局のディレクターなど、メディア関係者の取材に応じてきました。自分なりにまとめたものを、本として出版したこともあります。『生活保護vsワーキングプア』『生活保護vs子どもの貧困』(ともにPHP新書)では、若者や子どもといった貧困とは縁遠いとされていた存在に光を当て、生活保護との関わりをわかりやすく解説しています。近年の生活保護をめぐる政策動向などを知りたいのなら、こちらの本を一読されることをお勧めします。


 しかし、こうした活動のなかで、徐々に違和感を覚えるようになっていきました。


 メディアで伝えるのは、多くの人が共感する、わかりやすい生活困窮者です。大抵の場合、報道をする前にあらすじはできていて、それに沿うような対象者を探していきます。たとえば、「ネットカフェ難民」をテーマにするなら、できれば二十代か三十代の健康な男性を取材したい。「子どもの貧困」なら、子育て中で仕事をしているか、あるいは職業訓練を受けて頑張っているお母さんがいい。


 よく言えば、わかりやすい、悪い言い方をすればステレオタイプな取材のあり方に、「何か違うな」という気持ちがぬぐえずにいました。


 まとまりはよいのですが、どうも違う。


 都合の悪いもの、説明がつかないものを切り落としているのではないか。現場はもっとドロドロとしていて、割り切れないものも多いのに、「それは、まあ、置いておきましょう」と誤魔化してはいないだろうか。違和感は(おり)のように溜まっていきました。


 もっと、現場に近い、生々しい声を集めよう。もっとも周縁にいる、厳しい人たちの声を聞こう。なにより自分の違和感を解消したくて、当事者や支援団体のもとに足を運び、耳を澄ませました。


 そうしてできあがったのが、この本です。本書を読み進めていくと、読者であるあなたは意外な事実に気づいていくことになるでしょう。読んでいて楽しい話ばかりではありませんが、登場する当事者のエピソードは、きっとあなたに新しい気づきを与えてくれると信じています。

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