読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1088266
0
ディズニーランド最強上司の教え
2
0
73
0
0
0
0
ビジネス
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
たとえアルバイトでも、仕事は仕事なんだ

『ディズニーランド最強上司の教え』
[著]香取貴信 [発行]ゴマブックス


読了目安時間:9分
この記事が役に立った
73
| |
文字サイズ


ひとりぐらい休んだって、たいしたことねーよな



 東京ディズニーランドは、勤怠に非常に厳しい職場でした。それは社員に対してだけでなく、アルバイトでも同じです。無断での遅刻や欠勤は絶対に許されませんし(ほかのところでも許されないか……)、事前に連絡をすればいいというものでもないのです。



 当時の私は、まだ高校生。友だちと遊んでいると、つい「サボっちゃおうか」という悪魔のささやきにのってしまいがちな年齢です。その日も学校が終わり、私は仲のよい友だちと遊んでいました。楽しい時間は過ぎるのが早く、時計を見ると、あっという間にアルバイトにいかなくてはならない時間……。


「やべぇな~。俺、もうバイトだから帰るわ」

「いいじゃんよ~。バイトなんかサボっちまえよ」

「でもなぁ……」

「大丈夫だよ。バイトだろ? 学校じゃねーんだからさ」


 (本当は学校サボるより難しいんだよなぁ ~心の声~)

「うーん……、まぁいっか!! ひとりぐらい休んだって、たいしたことねーよな」



 いま考えると、この安易さが、あとでとんでもないことになるのです……。


 いくらなんでも「無届けはやばいだろう」と思い、遊んでいたゲームセンターの公衆電話から連絡することにしました。

「どうか電話に、あの恐い町丸さんが出ませんように」と願いながら……。



 ~トゥルルル・トゥルルル・ガチャ~

「こんにちは、運営部運営課スケジューラーの岩田です」

「あっ、あの、運営部運営課、パレードゲストコントロールの香取ですが……」

「おぉ、どうした?」

「あの、いま学校で、居残りさせられてて、ちょっといけそうにないんっすよ」

「そっかぁ、わかった。どれぐらい遅れそうかな?」

「えっ、遅れる?」

「うん。どれぐらいで居残り終わるの?」

「いやぁ、まだわかんないっすね」

「そうか。じゃあ、いま町丸さんいないから、居残りが終わったら、もう1回電話してくれるかな?」

「(マジかよ……)はぁ、わかりました」



 電話を切った瞬間に、あの恐い町丸さんの顔が思い浮かんできます。



 町丸さんは、私が配属されていたパレードゲストコントロールという部署の責任者でした。当時、責任者は何人かいましたが、そのなかでもとびぬけて指導が厳しく、背も高いので迫力があり、「町丸さん=すごく恐い人」という印象を私はもっていました。


学校を理由にすれば怒られないんだ



 その後も友だちと遊んでいたのですが、なにをしていても町丸さんの顔が頭からはなれません。これでは遊んでいても楽しくないので、けっきょく30分の遅刻でアルバイトにいくことにしました。



 パークに到着するまでのあいだ、言い訳をあれやこれやと考えました。コスチュームに着替え、重い足取りで現場へ向かう途中で仲間のスタッフに、町丸さんの今日の機嫌をたしかめようと話しかけました。すると、今日の責任者は宮外さんで、町丸さんはお休みだといいます。「ラッキー!!」と思う反面、「畜生!! スケジューラーの岩田さんめ、だましやがったな」と思いました。



 宮外さんのところへいき、遅刻の理由などを説明しました。理由が「学校の居残り」であればしかたがないということで、あまり怒られることもなく、「勤怠報告書」なるものを記入し、宮外さんの上司であるスーパーバイザーに提出するだけですみました。これでその日の勤務は無事終了。サボるのは簡単だなと思いました。



 勤怠報告書とは、遅刻や欠勤などで、決められたシフトで勤務できなかった場合に、その理由と、今後どうするのかという防止策などを記入する書類です。これはアルバイトだけでなく、東京ディズニーランドで働く従業員全員が対象です。記入したら直属の責任者と面接し、責任者にもコメントを記入してもらい、スーパーバイザーに提出します。提出された書類は、課内で一定期間、保管されます。



 実は、この紙を1度でも書くと、その後の人事考課の際、どんなに他の評価がよくても、勤務意欲とチームワークの項目で減点対象となります。また、この紙が累計勤務時間1000時間のあいだで3枚以上になると(てん)(まつ)(しょ)に変わり、場合によっては契約更新が不可になってしまう、恐ろしい紙なのです。



 しかし当時の私は、そんなことも考えず、「学校の理由だったら怒られないですむのか」と都合のいい言い訳を見つけ、浮かれていました。そんな気分が災いしたのか、その2日後の日曜日に「寝坊」をやっちまったのです。


えっ、遅刻が「契約違反」だって?



 前日の夜から友だちとオールナイトで遊びまわっていた私が帰宅したのは、朝の6時近くでした。その日のアルバイトはお昼から夜までだったのですが、目が覚めたときには、なんともう勤務開始時間……。



 言い訳を考えたのですが、今日は日曜日で、学校があるはずもありません。しかたなく、震える指で電話をし、急いでしたくをしてパークに向かいました。



 パークに着いた私を待っていたのは町丸さんでした。絶対怒鳴られると思った私は、その前に、あーでもない、こーでもないと、嘘でかためた言い訳を連発します。



 ひと通り言い訳をして、おそるおそる顔をあげると、そこにはなんとも感情のない、能面のような町丸さんの顔がありました。


「では香取さん。もう言い訳はいいですから、こちらでお話しましょう」

「はっ、はい」なんなんだ? この冷静で、冷ややかな話し方は……)

「では、そちらにお座りください。最初に、これが、おととい香取さんが遅刻をしたときの勤怠報告書です。間違いありませんね」

「はぁ」

「おととい遅刻をされて、また本日も遅刻ですか……」

「いえ、おとといは学校の居残りで……」

「本当ですか?」(ギラ!! 鋭い目が私へ)

「は、はい」

「理由はどうあれ、遅刻は遅刻です。今回で2回めですね。これは立派な契約違反なのですよ。わかりますか?」

「け、契・約・違・反って……」

「はい。香取さんは、この期間中に、この時間であれば勤務できるということで、会社と契約をしたわけです。しかし、理由はどうであれ、その契約が守れなかったのは事実ですから、契約違反です。したがって、ここにネームタグ(名札)とIDカード(社内での身分証明証)を出してください」

「でも、おとといのは学校の居残りがあって、それで……」

「香取さんの学校のクラスには、大島さんがいますよね」

「(ドキッ)えっ!!



 そうです。私と同じクラスの大島くんも、このパークの違う場所でアルバイトをしていたのです。どうやら町丸さんは大島くんに、おとといのことをたしかめていたのかもしれません。


優しい人には嘘をつくのか!!


「すっ、すみません。おとといのは嘘です。ごめんなさい」

「べつに謝らなくてもいいですよ。宮外さんはがっかりするでしょうが……。まぁ、理由はどうでもいいんです。ここに退職手続きの書類と、その説明書きの書類があります。あらかじめ退職手続きの書類には私の印鑑を押しておきましたから……」

(ほ、本当に町丸さんの印鑑が押してある。この人、本気だよ……)

「さぁ、あとは香取さんがご記入くだされば、すべて終了ですから」



 ふだん見たことのない町丸さんです。感情を出さない淡々とした丁寧なしゃべり方が、かえって私には恐怖に感じます。このままでは本当にクビになる――、そう直感しました。

「ごめんなさい。本当にもうしませんから、クビにしないでください」



 ここでやっと、ふだんの恐い町丸さんに戻りました。


「おまえ、ふざけんじゃねーよ!! なんで嘘つくんだよ!! 優しい人には嘘つくのかよ!! 宮外さんや岩田さんは、おまえのいったこと信じてたんだぞ!! 人によって態度変えやがって!!


 それに昨日も夜中に仲間と遊んでたんだろ!! それで起きられませんって、当たり前だろ!! 起きられないんだったら、はじめから寝るな!! 死ぬまでここで反省してろ!!



 言葉も出ませんでした。町丸さんのいうとおりでした。当時の私は学校でもそうでしたが、優しい先生や上司の場合、それをどこかで感じ取って、バカにしたり、態度を変えたりしていたのです。


1000円、1500円、2000円の目覚ましがあるけど、どれにする?



 その後、おとといの勤怠報告書を正直に書き直し、本日分の勤怠報告書を持って、町丸さんのところへいきました。すっかり反省しきった私に町丸さんは、ただ「おとといのことを宮外さんと岩田さんに謝ってこい」とだけいいました。私は宮外さんと岩田さんに謝り、町丸さんのところへ戻りました。


「惜しかったな、これでおまえをクビにできると思ったのに……。でも、これで2枚目だから、もう1回でアウトだぞ」

「はい。すみませんでした」

「今日のは寝坊だったよな。おまえ、目覚まし時計、何個ある?」

「えっ? 2個ですけど……」

「そうか。じゃあ、このなかから好きなの選べ!!



 町丸さんが引き出しを開けると、そこには新品の目覚まし時計がたくさん入っています。どれも違う種類のものが……。


「これ、くれるんですか?」

「ばか、売るんだよ!! これが1000円で、こっちは1500円、これは2000円。どれにする?」

「えっ、……じゃあ、この1000円のやつ」

「はい、毎度ありがとうございます。代金は給料日に持ってきてくださいね」

「はぁ」


 実は、町丸さんは寝坊で遅刻したスタッフに売るために、あらかじめ目覚まし時計をた

くさん買っていたのです。~実話ですよ~



 そしてこのあと、私が退職するまでのあいだに、私の目覚し時計はさらに2個増えました……。(代金払ったっけ??)



 たかがアルバイトと甘く考える私に、アルバイトでもきちんとした組織の一員なのだということを遅刻の面接で怖いくらいに教えてくれた町丸さん。きっと、普通に指導しても効きめがないことがわかっていたのかもしれません。おかげで私は、アルバイトだろうがなんだろうが、仕事は仕事なのだと理解できたのではないかと思います。



 二度と寝坊で遅刻しないようにと、目覚まし時計まで“売ってくれた”その心づかいにも感謝します(笑)。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
73
残り:0文字/本文:4092文字
      この記事を収録している本
      レビューを書くレビューを書く

      今レビューすると30ポイントプレゼント! 今レビューすると15ポイントプレゼント! 犬耳書店で初めてのレビューはさらに30ポイント! ポイント詳細はこちら

      この本の目次