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(2021/11/26 追記)

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珍獣の医学
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くらし
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ベランダからダイブし、甲羅が割れてしまったカメ

『珍獣の医学』
[著]田向健一 [発行]扶桑社


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 ある日、甲羅がパックリ割れてしまったカメが来院した。ベランダで飼っていたミドリガメが水槽から逃げ出し、手すりをくぐって空中ダイブしてしまったという。カメは基本的に水平方向もしくは水中を移動するために進化している動物なので、移動範囲も垂直ではなく水平方向である。よって、「高さ」の概念を基本的に持ち合わせていない。そこで、水槽から逃げ出したカメさんが、コトコトとベランダを歩いているときにベランダの手すりの下に隙間があったりすると、いつの間にか空中散歩となって地上へとダイブしてしまうのである。年に数例は、このようなダイビングカメが来院する。

 カメの甲羅は、殻ではなくて骨組織である。つまり甲羅の損傷は一種の骨折ということになるのだが、甲羅はカメにとって皮膚兼骨なので、割れてしまうと内臓が飛び出すほどの大ケガとなる。人間でいえば、開放骨折や内臓破裂に相当し、割れどころが悪いと死んでしまう。また、背中の甲羅(背甲)の中心には背骨が裏打ちされているため、横一文字に背甲が割れると、下半身麻痺になる。救急救命は迅速で適切な処置が重要となるが、それはカメも同じことだ。

 まず、ダイビングカメが運ばれてくれば、酸素吸入を行い、抗ショック剤、抗生物質の全身投与を行う。割れた甲羅には滅菌ガーゼを施し、食品用ラップフィルムを巻いて乾燥から臓器を守る。緊急状態から脱するまでは、水の中には入れられない。脱水を防ぐため、点滴で水分を補給する。

 四十八時間後、なんとかヤマを越え、状態が安定した。私が得意とするパテ(「新しく考案したカメの手術法にアメリカからも問い合わせが」参照)で甲羅をつなぎ合わせる。こうすれば割れた甲羅は固定され、傷口から水が入らない。人間も同様であるが重篤な外傷事故の場合、傷口からの感染症を防いだ後、「つなぐ、ふさぐ」の処置を施す。あとは個体の回復力に任せるしかない。このダイビングカメさん、七日後には、水中生活を送れるまでに回復した。


 

ベランダからダイブしてしまったカメ。無惨に内臓が見えている。

 

手当を行った後は乾燥から守るため食品用ラップフィルムで保護。

 

6か月後には、固定するためのパテもはずすことができ、無事完治した。


 このように飼育下ではちょっとした不注意やアクシデントによって思いがけない事故がおこってしまう。また、出会い頭ともいうべき事故もある。そして、さまざまなケガを負った動物が病院へやってくるのである。

 
「先生、大変です! 田舎のペンションに遊びに行ったら、そこにいた番犬の紀州犬に、ウチの子が襲われました! 死に物狂いで助けたのですが、こんなありさまに……」

 駆け込んできた飼い主さんが連れてきたトイ・プードルは、背中の中央が食いちぎられ、ザックリと割けてしまっていた。

 幸い脊髄は無事だったが、もし脊髄まで噛まれていたら、即死だっただろう。不幸中の幸いとはいえ、それにしても背中に開いた穴のような大きな傷が痛々しい。全身麻酔を施し、欠損した皮膚を形成する。

 犬や猫の皮膚は人間のそれよりもルーズであり、引っ張るとかなり伸びる。その性質を利用して、大きく欠損した皮膚の穴をふさぐ。まるで裁縫の型紙のようなイメージで、皮膚にいくつかの切れ込みを入れる。皮膚を切ったり張ったり縫ったりすることを皮膚形成外科というが、より大きな欠損をふさぐには皮膚の切り方、縫い方、そして皮膚血管の走行を知っておかなければならない。

 こうして、背中の皮膚を大きくえぐられたトイプードルの背中もうまく縫合された。抜糸は二週間後。毛が生え揃えば傷口も見えなくなり、元通りとなる。


 
皮膚欠損に対する形成パターン例

 

背中を食いちぎられたトイプードル。痛々しいが、脊髄に至らなかったのは不幸中の幸いだった。




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