『<武田信玄と戦国時代>悲喜こもごも 乱世を生きた武田の女たち』
[著]安西篤子
[発行]学研
政略の具に供され、
独身で通した孤高の姫君
永禄十年(一五六七)の暮れも押し迫った十二月中旬に、甲府へさかんな行列がくり込んできた。釣台に物を載せて次々に運び込むのは、いわずと知れた他家からの進物である。
ほかでもない。これこそ武田信玄の六女お松と、織田信長の嫡男奇妙丸(のちの信忠)との間に婚約のととのった祝いに、岐阜から送られてきた結納の品である。
まず信長から信玄へは、虎の皮三枚に豹の皮五枚、緞子一〇〇巻、金具の鞍鐙一〇口とある。