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空間メディア入門―僕たちは空間を使って何ができるのか
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はじめに

『空間メディア入門―僕たちは空間を使って何ができるのか』
[著]平野暁臣 [発行]イースト・プレス


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 メッセージを伝える


 コミュニケーションを媒介する


 アクティビティを誘発する



 こうした役割を担って社会に送り出される空間を、ぼくは「空間メディア」と呼んでいる。文字通り「メディアとしての空間」のことだ。


 特定の空間に人を集め、固有の体験を提供する。空間に情報を織り込み、体験を通して相手とコミュニケートする。つまりは情報を出来事として伝える。


 これが空間メディアの基本構造だ。


 むずかしい話をしているわけではない。美術館、博物館、博覧会、展覧会、見本市、ショールーム、テーマパーク、ライブイベント、イベントプロモーション……、毎日の生活で馴染みの深いこれらの空間は、いずれも空間メディアのバリエーションである。ぼくたちの身の回りにはさまざまなコミュニケーション空間が溢れているし、日常のビジネスツールとしてこの種の空間を使ったりつくったりしている人もたくさんいる。


 人は昔から空間メディアを上手に使ってきた。たとえば万国博覧会。インターネットはもとよりマスメディアさえなかった時代に、大衆に先端情報と世界情勢を伝えていたのは万博というメディアだった。


 20世紀に入ってマスメディアが隆盛を極めてからも、空間メディアは独自のポジションをキープしつづけた。空間で情報を発信できるのは空間メディアだけ。マスメディアにはないこの特性を武器に、固有の役割を果たしてきたわけだ。


 一方で、厳しい競争にさらされずに済んだことが(ぎょく)(せき)(こん)(こう)を生んだ。空間メディアには、「リアルな空間」という他のメディアにはない武器が与えられている。だから、はっきり言えば、なにも考えなくてもなんとかなってきた。 パネルやビデオを見せるだけの展示会、商品をテーブルに並べただけのショールーム、スクリーンに映像を垂れ流すだけの展示館……。その程度でも許されたし、商売になった。つくり手はそんな牧歌的な状況を謳歌していたのである。


 だが事情は一変した。いま、ぼくたちを取り巻く情報環境は激変している。文字通り三年先になにが起きているか予測がつかない。比喩ではなく、本当に変化のスピードが想像を超えているのだ。


 うねりの震源がデジタル技術とインターネットであることはいうまでもないだろう。安穏と暮らしていたらとつぜん黒船がやってきたようなもので、既存のメディアはみな荒波に晒されている。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のマス四媒体はいずれも大きなダメージを受けているし、構造レベルの再構築を余儀なくされている。


 むろん空間メディアも例外ではない。もはやなにも考えずに前例を踏襲するだけで許される状況ではないし、まして目をつぶって嵐が過ぎ去るのを待っていても望みはない。


 もう牧歌的な時代に戻ることはないのだ。


 大変な時代になった。だがピンチはチャンスに通じる。ここを乗り切れば、自らの立ち位置がはっきり見えるし、これまで以上に強くなれるはずだ。


 やるべきことははっきりしている。


 空間というメディアが果たすべき役割とはなにか? メディアとしての空間にはどんな性能が与えられているのか? その性能をフルに引き出すにはどうすればいいのか? ……。


 すなわち空間だけが実現できるコミュニケーションとはなにか? それを考えればいい。


 空間はインターネットが逆立ちしても手に入らない性能を備えている。それを活かして戦えば負けることはない。要は空間にしかできないことをやればいいのだ。当たり前のことを当たり前にやればいい。


 そしてもうひとつ大切なことがある。ぼくたちの情報観がどう変わりはじめているかをしっかりと見極めること、そしてそれに応える戦略を準備することである。


 実はいま、デジタル技術とインターネットの出現により、安定していた情報世界の生態系が大きく変わりつつある。空間メディアも生態系の一部だから、当然ながら変化に適応しなければ生き残れない。


 問題は、環境変化に伴って情報に対する感性までが変わりはじめているということ。マスメディアの時代とは大きく異なる感覚が、ぼくたち自身のなかに芽生えはじめている。慣性が働くから、ある日とつぜん様変わりすることはないけれど、変化の動きは止められないし、そのスピードは今後ますます早くなる。もう元に戻ることはないだろう。


 こうした環境のなかでメディア空間をつくること。それがぼくの仕事だ。万博から葬儀まで、さまざまな情報空間を組み立てながら、空間というメディアについて考えてきた。


 依然としてわからないことばかりだが、ひとつだけはっきりしていることがある。成功している事例はいずれも空間の特性をうまく活かしているということ、そしてそれを実現する方法論をつくり手がしっかりと確立しているということだ。


 これからの時代にメディア空間をつくろうとするなら、独自の思想と戦略を準備することが不可欠だ。なにも考えずに旧来のやり方を続けていたら、やがて退場を迫られるときが来る。その日はそう遠くない。


 そんな思いから、ぼくはいろいろな場所で空間メディアについて話をしてきた。 大学、行政、イベント業界、ディスプレイ業界、デザイン業界……、相手によって話の中身は変わっても、言いたいことはただひとつ。


 空間コミュニケーションとはなにか。この一点だ。


 本書は、これまでぼくが講義のなかで話してきたことを集成し、再構成したものである。講義という性格上、シンプルに、わかりやすく伝えることを優先している。論理の厳密性には多少問題があるかもしれないけれど、それと引き換えに専門外の人にもわかってもらえる内容になっているのではないかと思う。


 空間メディアはこれからますます重要になる。デジタルメディアが暮らしの隅々に浸透するほど、「生々しい実感」への欲望が掻き立てられるからだ。


 ビジネス社会であれ地域社会であれ、メディア空間への期待は今後いっそう大きくなるだろう。誰もが空間メディアの使い手になるべきだし、実際そうなる人が増えていくはずだ。


 これからメディア空間に関わろうとする方々にとって、本書がわずかでも参考になれば望外の喜びである。


2009年11月  平野暁臣  

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