『プロデュース入門―オリジナリティが壁を破る』
[著]平野暁臣
[発行]イースト・プレス
§1-7
オーケストラの指揮者のように
プロジェクトが机上から現場に舞台を移し、本格的な実務作業のフェーズに入ると、毎日のように大小さまざまな『調整』がはじまる。
調整とは、いうまでもなく、全体の均整に向けて個のあり方を決めたり、個と個の関係性がスムーズになるよう折り合いをつけたりすることだ。喩えて言うなら、指揮者がオーケストラの各パートを少しずつ微修正しながら自分のサウンドを創っていくようなものである。
指揮者はリハーサルで奏者の演奏を聴きながら、演奏のディテールを決めたり修正を指示したりする。「全体のトーンやテイストを揃えるためにそれぞれの音色やニュアンスをコントロールする」といった「全体均衡」を目的とする場合もあれば、「同時に音が出る複数の楽器間のバランスを整えるためにそれぞれの音量やタイミングを制御する」ような「個と個の関係性の問題解決」を目的にする場合もあるが、いずれであれ共通しているのは、「指揮者が現状に潜む課題を発見し、それを乗り越える方法を提示、関係者が皆でその指示を遵守して軌道修正する」というプロセスだ。これが調整と呼ばれる行動の基本構造である。
「調整」のための三つの条件
『調整』が成立するためには三つの条件が満たされることが必要だ。
第一に、現状を見極める眼力が要る。
調整とは「いま起きている事態をより良い状態に近づけること」だから、まずは「いま起きている事態」を正確に読み取れなければスタートラインに立てない。そのうえで「目の前で進んでいる事態がこの先になにを引き起こすか」がイメージできなければダメだ。そのイメージこそが調整行動のモチベーションになるわけで、行く先に氷山や浅瀬があることを予見できなければ舵の切りようがないし、そもそも舵を切ろうとも思わない。予見なくして動機は生まれない。本書ではこれを『予測』と呼んだ。
「現状と目指すものが乖離している」「現状にはまだ改善の余地が多い」「現状のまま進むといずれ立ち行かなくなる」など、いま起きている事態を観察して問題を発見し、事前に手を打つ。