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プロデュース入門―オリジナリティが壁を破る
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§2−1 プロデュースの原子構造

『プロデュース入門―オリジナリティが壁を破る』
[著]平野暁臣 [発行]イースト・プレス


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§2-1 プロデュースの原子構造

プロデューサーは何をつくり出すのか


 前セクションではプロデューサーが駆使する「10の仕事」を見てきた。プロデューサーはこの「10の決め技」を順に繰り出したり組み合わせたりしながら、プロジェクトを率いていく。野球選手は試合に勝つために守り、投げ、打ち、走らねばならないが、それと同じだ。


 野手はその四つをすべて水準以上でこなせなければ使ってもらえない。レギュラーとして年俸を稼ぎたければすべての技術を磨くしかないし、「走れますが打てません」では代走要員に甘んじるほかはない。だからトレーニングを重ね、紅白戦で勘を養う。


 一方、こうした技術を磨くかたわらで、やらねばならないことがもうひとつある。それは野球という競技のメカニズムを構造レベルで理解することだ。野球とはいかなる構造特性を備えているのか。その本質がわかっていれば、どんな試合展開になろうと自分がいまなにを為すべきかが見えてくる。ひたすらバットを振り回すのもひとつのスタイルではあるけれど、できることなら試合全体を俯瞰しながら戦略的にプレイできる選手になった方がいい。むろんプロジェクトリーダーも同様だ。


 ではいったいプロデューサーは「10の決め技」を駆使することでなにを創り出せばよいのか? その相手はどんな姿形をしているのか? 要するに、プロデュースとはなにか? 次にその構造と原理を探っていきたいと思う。


 前セクションと同様に、かつてぼくがお手伝いしたプロジェクトの実例を切り口に考えていく。六本木ヒルズアリーナがライブコミュニケーション系だったので、今度は空間コミュニケーション系の仕事を取り上げよう。紹介するのは『日本デザインの遺伝子』展(正式名称は『Japan Design 2006, Bangkok』)という展覧会形式のイベントだ。2006年の2月から3月にかけてタイのバンコクで開催された。小さなイベントだったが、やりがいのあるとても面白い仕事だった。


 具体的な話をはじめる前に、まずはプロデュースという営みの全体像を概観しておきたい。プロデュースのメカニズムを模式的に整理してみることにしよう。皆さんの頭の中にあらかじめ“地図”をつくっておいて欲しいからである。


プロデュースを絵にすると……


 もし「プロデュースとはなにか、目に見えるように絵に描いてみろ」と言われたら、皆さんならどうされるだろう。




 上図がぼくの答えだ。ご覧のように、ちょっと原子構造に似ている。これがぼくの考えるプロデュースの基本構造である。本書では「プロデュースの原子構造」と呼ぶことにしよう。


 中央には原子核のような塊があり、これに向かって「Mission」が注入されている。逆にMissionから原子核がつくられると解釈してもかまわない。いずれにしても構造体には核があり、その核をMissionが統制しているわけだ。


 Missionとはそのプロジェクトの基本使命のこと。「そのプロジェクトでなにを実現し、なにを獲得しようとするのか」という到達目標のイメージだ。六本木ヒルズアリーナのそれは「六本木ヒルズのブランディングに貢献すること」だった。すべてのはじまりはMissionであり、原子構造を根元で支配している。これまで繰り返し語ってきた通りだ。


 原子核は4つの要素「Principle」「Strategy」「Theme」「Vision」で構成されている。


 Principleとはそのプロジェクトの基本思想、すなわち「どんな哲学の下にプロジェクトを進めていくのか」についての考え方である。そのプロジェクトの基本的態度を決める行動規範、あるいはプロジェクトを根幹で支える美意識と言い換えてもいい。要するにプロジェクトのあり方を構造レベルで定めたもので、プロジェクトにとって「アイデンティティとレーゾンデートルの母」のような存在だ。アリーナでは「六本木ヒルズの開発理念を体現し、その美意識を大切にする」ことだった。


 Strategyとは文字通りプロジェクトの基本戦略のこと。「いかなる方法をもってプロジェクトに臨むのか」。Principleを基盤としてMissionに近づくためにどのような方法論を押し立てて進んでいくのか、その基本アイデアだ。プロジェクトを実際に構成していくときの「司令塔」の役割を果たすもので、具体的な戦術を組み立てたり手段を選択したりするときの拠り所になる。アリーナでは「ワールドワイド、多彩なバリエーション、良質・本物・アートマインド」と定めた。


 Themeはそのプロジェクトの基本主題だ。つまり「プロジェクトを通じて発信すべき概念とはなにか」。プロジェクトとは例外なく社会的な存在であり、その成果は社会に打ち込まれた矢のようなものである。プロジェクトの成果がモノであれコトであれ、そこには必ずメッセージがあり、それを支える概念がある。それが社会とつながる武器になり、プロジェクトの強度を左右する。クリエイティブなプロジェクトほどメッセージの果たす役割は大きい。アリーナの基本主題は「新しい都市の広場」であった。


 最後のVisionとはそのプロジェクトの基本情景、すなわち「プロジェクトでどんなシーンを現出させたいのか」のイメージである。上記三要素が概念だったのに対して、こちらはむしろヴィジュアルイメージに近い。準備が完了して社会に送り出されたとき、プロジェクトはいったいどんな景色をつくり出すのか。逆にいえば、どんなシーンが立ち現れることを夢見てプロジェクトを組み立てるのか。いわばプロジェクトの「原風景」である。これが発想の原点になる。アリーナのときは「いつも違う。ダイナミックに空気が変わる」だった。


原子核を取り巻く三つの命題


 さらに原子核の周りを三つの命題領域「Structure」「Contents」「Formation」が取り巻いている。それぞれは原子核と個々に接続しながら、互いにも結ばれている。前者は放射状の関係で、後者は円環的な関係だ。


 仮に原子核を「基本理念」と呼ぶなら、三つの領域はまさしく基本理念を中核につくり出されたものであり、基本理念を成立させる手段として存在している。喩えて言うなら、基本理念が「スピリット=精神」であり、三つの領域が「ボディ=肉体」である。人間にとって精神と肉体がともに必要なように、プロデュースという営みも両者が備わってはじめて成り立つ。


 Structureとはそのプロジェクトの基本スキーム、すなわち「プロジェクトの展開形式をどう組み立てるか」。プロジェクトの成果をどのような形式と条件の下にアウトプットするか、という枠組みのことだ。モノであれコトであれ、プロジェクトのアウトプットには無数の選択肢があり、そのあり方は一様ではない。ミッションと原子核=基本理念に照らして自ら決めるしかない。


 たとえば太極拳のケースでは「会期/夏の朝の3週間」「ターゲット/近隣コミュニティ」「参加費/無料」「近隣町会との連携」「朝食券の配布」……といった仕組みの組合せで実施したわけだが、もちろん考え方が変わればやり方も変わる。Structureとはこうした5W1H的なスキームを組み立てていくことを指す。


 Contentsとはそのプロジェクトの基本エレメント、すなわち「プロジェクトに織り込むべき成分とはなにか」だ。Structureで組み立てられたスキームをどんな中身で満たすのか。Structureという器にどんな料理を盛りつけるのか。形式と構造が同じでも、Contentsが変わればまったく別物になる。


 クリスマスのケースで考えてみよう。仮に「出入り自由のフリーコンサート」「映像を大きく取り入れた舞台構成」等の形式がそのままだったとして、もし日本のアイドルタレントが出てきたらどうなっていたか、映像の中身がディズニーアニメだったらどうだっただろうか………。もはや言うまでもないだろう。プロジェクトのクォリティやテイストを最後に確定させるもの、それがContentsだ。


 Formationとはまさしくそのプロジェクト推進の基本フォーメーションのこと。すなわち「プロジェクトの駆動体制をどうつくるか」。どんな職能をどのように束ねるか。どの司令官をどのように配置してどんな陣形を組むのか。


 実務執行体制の鍵になるコアメンバーのキャスティングはプロデューサーの責務であり、戦ううえでの武器でもある。外からは見えないので注目されないが、実は「誰がつくるか」は「なにをつくるか」と同じくらい決定的な問題だ。ぼくは「なにを」と「誰が」を同時に考える。


 このように、三つの領域とは「構造」「プログラム」「体制」を意味するものだ。言い換えれば「形式」「内容」「技術」である。「舞台」「情報」「つくり手」と言ってもいいし、「どのように」「なにを」「誰が」と考えてもいい。


 この三領域は分担しながらひとつの原子核を支えている。基本理念を支えるために三本足で立っているわけだ。しかも三本の足は互いに繋がってもいる。Contentsの実現をStructureが支え、そのStructureの実現をFormationが担保し、FormationがContentsをつくる。だから三つの検討は同時にはじまり、同時に進み、同時に精度を上げていく。


ゆるぎない原子構造を組み立てる


 以上がぼくの考える「プロデュースの原子構造」である。クリエイティブなプロジェクトはほぼすべてこの構造でできている。アウトプットがモノであれコトであれ違いはない。


 プロデューサーの仕事とはすなわち「ゆるぎない原子構造を組み立てる」ことにほかならない。クリエイティブなプロジェクトはこれがしっかりとできていないと正常に機能しない。どこかにひとつでも穴が空いたままだと、仮に見た目はカッコがついていても力のあるものにはならず、結局はミッションを果たせないのだ。


 この模式図を地図にしてものごとを考えてみて欲しい。もし皆さんが過去に手掛けたプロジェクトがうまく運ばなかったとしたら、おそらくこの構造のどこかに穴が空いていたに違いない。


 ぼくはいつもこの図を思い浮かべながら仕事をしている。そうすることで足りないものが見えてくるからだ。


 最後にもう一度整理しておこう。


● Mission=基本使命――そのプロジェクトでなにを実現し、なにを獲得するのか

● Principle=基本思想――どんな哲学の下にプロジェクトを進めていくのか

● Strategy=基本戦略――いかなる方法をもってプロジェクトに臨むのか

● Theme=基本主題――プロジェクトを通じて発信すべき概念とはなにか

● Vision=基本情景――プロジェクトでどんなシーンを現出させたいのか

● Structure=基本スキーム――プロジェクトの展開形式をどう組み立てるか

● Contents=基本エレメント――プロジェクトに織り込むべき成分とはなにか

● Formation=基本フォーメーション――プロジェクトを進める体制をどうつくるか


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