『プロデュース入門―オリジナリティが壁を破る』
[著]平野暁臣
[発行]イースト・プレス
§2-2
タイ政府の期待
六本木ヒルズアリーナと同様に、バンコクの仕事も一本の電話からはじまった。日本貿易振興機構(ジェトロ)の知人からだった。近々来日するタイ政府の高官と話をしてくれないか、という。
聞けば、いまタイ政府はデザイン振興を重要な政策課題と位置づけており、その柱のひとつとして「Thailand Creative and Design Center(TCDC)」という拠点施設の設立準備を進めている。TCDCの一角には企画展示のためのスペースがあり、各国のデザイン事情を順に紹介していくつもりだが、その第一段としてぜひ日本のデザインを取り上げたいと考えている。タイ政府はそのオーガナイズをジェトロに要請してきた。TCDCの生みの親であり、このプロジェクトの責任者でもある首席首相政策顧問が来日するので、ざっくばらんな意見交換に付き合ってもらえないか。そういう話だった。2004年の秋だったと思う。
宿泊するホテルのカフェで、リラックスした議論がはじまった。デザイン振興に関するタイ政府のスタンスと進行中の重点施策、TCDCのコンセプトや計画内容などを語った後に、彼はこう切り出した。
「我々は日本デザインの秘密を知りたい。日本のデザインが備えている特徴はどこから来ているのか? なぜ日本人は競争力のあるプロダクトを次々に生み出せるのか? 日本製品の特性をつくり出す源泉はなにか? 日本人のデザインマインドの背後にはいったいなにが隠されているのか? Why? Why? Why?……」