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プロデュース入門―オリジナリティが壁を破る
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ビジネス
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§2−3 基本使命(ミッション)

『プロデュース入門―オリジナリティが壁を破る』
[著]平野暁臣 [発行]イースト・プレス


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§2-3 基本使命(ミッション)

Mission



 プロジェクトのバックグラウンドを知っていただいたところで、このときぼくがプロデュースの原子構造をどのように組み立てていったのかをお話ししていきたいと思う。プロデューサーであるぼくがなにを考え、なにをつくろうとしたのかを概観しながら、「プロデュースとはなにか」を考えていくためだ。


ミッションを定めて、道を明確にする


 繰り返し強調しているように、プロジェクトはミッションを達成するためにある。まあ、実際にはプロジェクト一発で「達成」するところまでは難しいので、「達成に向けて一歩近づく」というくらいが現実かもしれないけれど、いずれにしてもすべてはミッションからはじまり、ミッションがプロジェクトのあり方を決める。ミッションという“炎”が原子核に吹き込まれることでプロジェクトに命が宿り鼓動をはじめる、といったイメージだ。


 では、今回のプロジェクトのミッションとはなにか。


 最終目標はいうまでもなく「日本の国益」と「タイの国益」に貢献することである。両国の政府機関が主催するのだから、当然そうなる。だがこれではいくらなんでも話が大き過ぎてプロジェクトのミッションとはいえない。国益に貢献するという目標を山頂に喩えれば、ミッションとは「どのルートを進んで山頂を目指すのか」を示すものだ。進むべき道がはっきりしない限り、いくら山頂が見えていても動きようがないわけで、この意味でミッションとはプロジェクトを起動させるスイッチの役割を果たすものである。


 これについても誤解している人が少なくない。たとえば自動車販売会社の周年イベントの企画担当者がミッションを問われて「販売促進です」などと口にしたりする。一口に販売促進といっても新規顧客の開拓から関係者の士気向上まで道は無数にあるわけで、単に「販売促進です」ではなにも言っていないのと同じだ。そもそも販売促進は会社そのもののミッションであって、単発プロジェクトのミッションとしてこれを掲げても意味がない。


 社会に対して「いままでの古いイメージを書き換え、新しいマーケットに斬り込みたい」のか、ユーザーに対して「上顧客層に熱いメッセージを送り、さらなる囲い込みをしたい」のか、各販社に対して「開発理念や目指す未来像を共有し、アイデンティティを再確認したい」のか、社員に対して「帰属意識と誇りを育み、求心力を高めたい」のか……。少なくともこのくらいははっきりしていないと原子核はつくれない。


 ミッションには原子核のあり方を決めるだけの情報が要る。方向性のない包括概念や哲学的な抽象概念はミッションではない。むろん根性論でも精神論でもない。ミッションとはあくまでクールな計画与件と考えるべきだ。


二つのミッション


 バンコクのプロジェクトでは、ジェトロのカウンターパートだった古谷朋彦氏とミッションを詰めていった。彼はこの種のプロジェクトのエキスパートで、ぼくもセビリア万博や大田(テジヨン)国際博の日本館を彼と一緒につくってきた。この仕事でも、構想段階から現場運営に至るまで、二人で手分けをしながらプロジェクトを捌いていった。ぼくとは職能が違うけれど、彼もプロだ。クライアントサイドにプロがいるとプロジェクトの推進力は大きく加速する。


 このとき考えたミッションは二つ。ひとつは「日本のモノづくりの文化に対する理解と共感を育む」こと。もう一つは「タイのモノづくりの文化に彼ら自身が思いを馳せるスプリングボードになる」こと。


 いうまでもなく前者は日本の国益そのものである。日本のモノづくりを支える優れたデザイン力とその特質を理解してもらうことができれば、彼らの身の回りに溢れる日本製品への親近感につながる。日本という国そのものに対する興味と関心を醸成できるかもしれない。なにより日本人の理解に直結する。モノに対する独特な感性やモノづくりに向けられる固有の美意識は、日本人と日本文化を知るうえでもっともわかりやすいテーマだからだ。


 さらにもうひとつ、日泰関係ならではの特殊事情もある。前述したように、タイには日本の企業が数多く進出しており、膨大な数のタイ人が日系企業で働いている。工場でMade in Thailandの日本製品をつくっている人がたくさんいる。そういう人たちに日本のモノづくりの文化をわずかでも伝えることができたら、そしてそれに共感してもらうことができたら、その影響は計りしれない。自分がつくっているものに対する見方が変わり、距離感が変わる可能性があるからだ。進出日系企業に対する大きな援護射撃になる。


 このプロジェクトに協賛してくださったトヨタ・モーター・タイランドの佐々木良一社長が公式記録に寄せてくださった一文を読むと、このあたりの事情がよくわかる。話が前後してしまうが、ご紹介しよう。


 「タイには約6000社の日系企業が進出していて、民間ベースで数多くの技術移転をしている。そのような状態の両国だが、ただ単に技術だけを移転しようと思っても、タイ人にはタイ人の文化や様式があり、そう簡単にいくものではない。……〈中略〉……今回の展示会の趣旨には非常に共感をもった。もっとも興味深かったのは15の遺伝子のまとめ方だ。このようにIDの分野をまとめたものは初めて見た。この遺伝子の一つひとつは車のモノづくりにも通じるもので、本当に興味深かった。現在、在タイの外資系企業では開発拠点を続々とタイに設けるようになってきており、そのような外資系企業の人たちにとっても良い刺激になったと思う」


期待に応える


 一方、タイ側の期待は明らかだった。近い将来、競争力のあるタイ独自の産業デザインを華開かせたい。そのためにはインダストリアルデザインの概念と思想を普及させねばならないし、デザインが競争力の源泉であることを産業界に理解させねばならない。すべてはタイ人自身が「タイのモノづくりの文化とはなにか、アイデンティティはなにか」「それをこれからどう活かしていくべきか」「独自の発想やスタイルの拠り所をどこに求めるか」を自ら考えることからはじまる。日本の歩んだ道とその方法に間近に触れることで、タイ人を刺激したい。おそらくそう考えていたと思う。


 実際、このプロジェクトの発案者である前述の首席首相政策顧問・パンサック氏は閉幕後、同じ記録集にこう寄せている。少し長くなるがそのまま紹介しよう。


 「タイのデザイナーには、自国の歴史や文化・素材などについて理解を深めて欲しい。そしてオリジナリティを追求し、タイでしかつくれない、付加価値の高いモノづくりができるようになってもらいたい。それが私の願いであり、アジアでの競争に勝てる唯一の道であると信じている。オリジナリティを見出すには、デザイナーの内部に存在するものを追求していくより他に方法はない。他国や他人のデザインを安易に真似ても優れた製品はつくれない。これが私の持論であったが、それをみごとに実証してくれたのが今回の展示だ。たいへんわかりやすく日本の素晴らしい産業デザインの秘宝を明かしてくれた。展示会を観た多くのタイ人は日本の美しい自然・文化背景に驚嘆し、モノづくりのたゆみない努力の歴史に感動したと思う」


 ぼくたちが掲げたミッションは間違っていなかった。そしてぼくたちが投げた球はまっすぐに届いたようだ。解体撤去を終えてこの文章を読んだとき、心から安堵した。


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