読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

犬耳書店はRenta!へ統合いたします

(2021/9/29 UP)

犬耳書店は、姉妹店のRenta!(レンタ)へ統合いたします。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

0
-1
kiji
0
1
1091118
0
記者会見ゲリラ戦記
2
0
0
0
0
0
0
ルポ・エッセイ
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
まえがき

『記者会見ゲリラ戦記』
[著]畠山理仁 [発行]扶桑社


読了目安時間:4分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


 

 私は「椅子以下」の記者だった。いや、間違えた。今もそうだ。

 私の名刺には、こんな肩書きが書いてある。
「フリーランスライター」

 その意味するところは「どこの組織にも所属せず、一人で世の中の出来事を追いかけて原稿を書く記者」である。少なくとも私はそう思って名刺に入れている。

 しかし、この肩書きはあくまでも「自称」にすぎない。名乗るための資格もなければ免許も必要ない。だから私が何か事件を起こして新聞沙汰になる時は、おそらく「自称・フリーライター」と書かれてしまうことだろう。

 いや、「自称・フリーライター」ならまだいい。最悪の場合、「無職」と書かれるおそれもある。誰も身分を保障してくれないフリーランサーは、いつでも潜在的失業者、プータローであり、社会的信用にも乏しいからだ。

 なぜ私が冒頭からこんなことを書くのか。

 それは本書のもう一つのテーマである「記者クラブ制度」に、「組織に所属しない」私の立場が大きく関わってくるからだ。

 日本のマスコミ業界では、長い間、私のようなフリーランスの記者は「階級制度」の外にあった。そのことをよく表すエピソードとして、私が「椅子以下」であると思い知った場面を紹介したい。

 

 政治に詳しい人なら知っていることだが、日本の各省庁では毎週二回、火曜日と金曜日の閣議後に大臣の定例記者会見が開かれている。会場となるのは、主に各省庁にある記者会見室。そこには大臣が話す演台に正対する形で、取材する記者たちが座る椅子がズラリと並んでいる。

 記者会見開始前に会見室に入ると、決まって奇妙な光景が広がる。会見室には誰もいないのに、記者席の椅子の上には「記者クラブ」の記者たちの名刺がすでにビッシリと置かれているのだ。

 椅子に置かれた名刺をよく見ると、実に面白い。なんと、全く同じ名刺が二つも三つもある。その名刺を集めてポーカーゲームを始めたら、すぐにフルハウスやフォーカード、運がいい時にはファイブカードまでできるくらい同じデザインの名刺が転がっている。

 ひょっとして、同じ会社に同姓同名の記者が何人もいるのだろうか?

 違う。一人の記者が自分の名刺をいくつも椅子に置き、同僚のために椅子を確保しているのだ。時には名刺だけが会見に出席し、記者本人が姿を見せないこともある。記者会見場では、記者クラブ記者の名刺が乱発されて、ひどいインフレ状態に陥っている。

 そんな各省庁の記者会見室で、フリーランスの記者は「椅子以下」の存在だった。なぜなら会見室の椅子にはあれほど気軽に名刺を置く記者クラブの記者たちも、不思議なことにフリーランスの記者に名刺を渡すことを躊躇(ちゅうちょ)してきたからである。

 2009年秋の政権交代以降、私は「記者会見オープン化」の現場を歩き始めた。初めて記者会見に参加する際には、なるべく「会見を主催」する記者クラブ幹事社の記者のもとへ挨拶に行った。その時には、必ず自分の名刺を差し出した。
「フリーランスライターの畠山です。今日から記者会見に参加させていただきます」

 すると多くの記者は、奇妙なことに同じような振る舞いをした。胸ポケットに手を入れて、「あっ!」という顔をする。そして次に出るセリフはだいたい決まっていた。
「今、名刺を切らしているので、また今度……」

 はっきり言って、彼らはどこの馬の骨ともわからないフリーランスの記者に名刺を渡すことは気が進まないようだった。椅子には置けるがフリーの記者には渡せない。つまり、フリーランスの記者は「椅子以下の存在」だったのだ。

 私は会見場に二度三度と通いつめ、その度に記者クラブの記者たちに名刺を渡した。向こうから名乗って名刺をくれることも稀にあったが、同じ記者に2回、3回と名刺を渡しても、一度も名刺をもらえなかったこともある。その度に私は思った。
「記者クラブの記者の名刺とフリーの記者の名刺は交換レートが違う。彼らの名刺はきっと金箔や漆塗りでキラキラ光る、よっぽど高級な名刺なんだな」

 ところが各省庁で「記者会見オープン化」の流れが進んでいくにつれ、記者クラブの記者たちの対応にも変化が生じてきた。胸ポケットに手を入れた後、ぎこちないながらも名刺をくれるようになってきた。その時、私は思った。
「名刺の交換レートが、ようやく1対1になった!」

 しかし、私が苦労の末に手にした彼らの名刺は、ちっともキラキラ輝いてはいなかった。素材も金やプラチナではない。普通の再生紙でできた、フツーの名刺だ。

 いったい、彼らはなぜここまでかたくなに名刺交換を拒んだのだろう。いまだに謎だ。

 そうした差別を経験した記者が書く本書は、これまで「椅子以下の存在」だったフリーランスの記者が、徐々に「質問する椅子」へと成長していく物語である。

 
なお、本文中の肩書きは執筆時点のものである。
この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:0文字/本文:1977文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次