『アベノミクスを阻む「7つの敵」 消費増税と「トンデモ経済学」を論破する』
[著]上念司
[発行]イースト・プレス
日本のように1ドル〇円という為替レートが刻一刻と変化する変動相場制の国においては、金融政策こそがデフレを脱却するために最も有効な手段です。これに対して金融政策の効果を否定するのは金融政策無効論で、それにはまったく根拠がないことは第一章で示したとおりです。しかし、金融政策無効論ほどはその効果を否定しないまでも、その効果をきわめて限定的なものと捉えて、むしろ政府による景気刺激策のほうが有効だとする考え方があります。
もちろん金融政策の効果を大部分認めつつ、それではカバーできない範囲について公共事業や産業政策的なアプローチが必要であることまで否定する気はありません。便宜上の説明として、金融政策の役割が8割ぐらい、財政政策(公共事業)の役割は1割ぐらい、その他が1割ぐらいということなら、別にそれほど否定するような話でもありません。
しかし、公共事業万能論や産業政策万能論のレベルまで行ってしまうと、「金融政策より、むしろこっちのほうが効く!」といった極端なものになってしまいます。ここまで行ってしまうと、経済学的な根拠はまったくありません。
それでも理論的にはスカスカ、統計処理も穴だらけなレトリックだけを振り回して公共事業を擁護する人がいます。はっきり言って、やりすぎです。たとえば、「公共事業の効果が限定的だ」などと言おうものなら、「お前は津波で人が死んでもいいと思っているのか!」といった、まるで人権派弁護士のような批判を浴びせてきます。
何か変です。もはや科学的な批判や検討に耐えるつもりがさらさらない、たんなるレトリックやポジショントークだと開き直っているのでしょうか。
もちろん、公共事業や産業政策も、使い方によっては経済厚生を高めるために有効な場合があるでしょう。しかし、いまの日本経済が陥っているデフレという問題を解決するために、それが唯一にして最大の解決策であるということはありません。
原理主義的にこれらの政策を推進しようとする人の背後には、国土交通省や経済産業省、それをとりまく族議員などの姿が透けて見えます。そんな利益誘導に根差した邪な考えで日本経済を救うことはできません。
公共事業万能論と産業政策万能論は、ともにきわめて類似したロジックを持った双子の兄弟です。とりあえず本章では先に公共事業万能論から取り上げ、その背後にある利益誘導の構造にメスを入れていきたいと思います。