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離婚の影にオトコあり。
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ルポ・エッセイ
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題 セミナーで出会った人

『離婚の影にオトコあり。』
[著]内藤みか [発行]二見書房


読了目安時間:34分
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 二〇〇四年の春から夏にかけて、私は毎週のようにどこかのセミナーに出かけていた。

 理由は、他にやることが、なかったから。

 当時、私は毎週のように呼んでいた出張ホスト遊びをやめたところだった。

 週に一度はシッターが来てくれるので、子どもを預けて私は外に出て、息抜きをしていた。シングルマザーは、ひとりで子どもを育てている。稼ぎも家事も育児も全責任を負っている。その重荷に潰れそうになることがたびたびあり、ヒステリックに子どもに怒鳴ったりもした。このままじゃダメだ。自分にも休みをあげよう。

 そうしないと、壊れてしまう……。

 そう思って週に一度、シッターに夜の数時間を託すようになってからは、ずいぶんラクになった。子どもぬきのたったひとりの自由な都会の夜。自分にはそれがあると思えると、毎日の仕事も頑張れるようになった。

 ひとりじゃつまらないから、安いランクの出張ホストを呼び、一緒に飲んだりカラオケをしたりして、過ごしていたりもしたのだけれど、もういいかげん飽きて呼ぶのをやめた。

 途端に暇になった。その暇を埋めるかのようにブログを始めた。そしてインターネットで見つけた起業家たちの勉強会に顔を出すようになった。ネット広告やネット商品で稼いでいる彼らに学ぶところが山のようにあったのだ。今まで、ただ淡々と日記を綴っていただけの私のホームページがネット書店と自著をリンクさせたり、動画や音声を付けるなどして大充実し、マスコミ各社にも注目されるようになったのは、彼らのアドバイスのおかげなのである。

 芙未香(ふみか)さんと会ったのも、こういったセミナーだった。

 当時、セミナーに参加する現役作家なんて私くらいしかいなかったので、ネット起業家の間ではすっかり私の名は広まっていたらしく、彼女のほうから声をかけてきてくれた。しかも、開口一番、
「みかさんって離婚してるんですってね。実はね、私もバツイチなの!」

 と明るくカミングアウトしてくれた。

 背が高く、キリっとした美人秘書という印象の彼女は、外資系企業で忙しく働くシングルマザーで、離婚して半年だという。いずれは輸入雑貨の店をネットで開業したいということで、セミナーに来ていたのである。私と年齢はそう変わらないように見えるのに、すでに四十代。二人のお子さんがいて、しかも中学生だなんていうから驚いた。
「あなたみたいな美人だったら、離婚する前からオトコがいたでしょ」

 と突っ込んでみると、
「大当たり!」

 と高笑いされてしまった。そしてセミナーの後、二人で連れ立ってご飯を食べにいって、すっかり親しくなってしまい、今でもとても仲がいい。

 彼女の離婚ストーリーは、かなり壮絶だ。

 それなのに彼女はカラッとそれを乗り越え、過去をあまり気にせず、常に目線を未来に持っていっていて、そういうところが私は大好きだった。芙未香さんと話すととても元気がでるのは、彼女が過去の経験をすべてプラスに受け止められているからだと思う。

 普通、離婚した女は、どんなに口汚く別れた夫のことを(ののし)っていても、
「私も悪かったのだ。私があの時ああしていれば……」

 という悔恨の念を背負っている。街を歩く幸せそうなカップルを見ては落ち込み、どうして自分は人さまのように幸せを築けなかったのだろう、と悔やんでしまうものだ。

 しかし芙未香さんの場合はそれがまったく感じられなかった。

 もちろん話をしてみると多少はそういった哀しい感情も見え隠れするけれど、ちらっとそれらが顔を覗かせても、明るく「でも、もう終わったことだから」と流してしまっていた。事実から目を逸らすわけではなく、きちっと受け止め、バスケットボールを誰かにパスするかのように、ポイッと過去をほうり出すことができていた。

 うらやましい、と思った。

 私なんて離婚してその当時はまだ二年目で、ちょっとでもお金に困るとすぐに、
「ああ、養育費をもう少し高く設定すればよかった。私はやさしすぎた。月額二人合わせてたったの四万円じゃ、家賃にもなりゃしないよ」

 と嘆いてしまったり、車が必要な時には、
「うわー、やっぱり離婚しなければよかった! 運転手としてでも夫を残しておけばよかったよ〜」

 と後悔してみたりと、とにかく自分のしたことが間違っていたのではないか、と気が気ではなかったのだ。

 聞いてみると、芙未香さんは私よりは養育費の額は多かったけれど、やはりマンションの家賃にはとても満たないような感じである。がむしゃらに働かなくては子どもを養っていけないのは、二人とも同じなのに、どうして彼女はこんなにも明るいのだろう。

 芙未香さんは誰に対しても、このポジティブぶりを発揮しているので、非常にモテる。彼女を慕う年下の男性も多いので、恋人にも困らないだろう。
「まあ言い寄ってくるのは大勢いるけど、でも私、自分が好きになった人じゃないと、お付き合いしたくないから」

 サバサバとそう言い切るところも、また、彼女らしかった。
「で、いたんだ。好きになれた人が」

 そう話を振ると、
「そう、いた」

 と強くうなずいた。そして満面、笑顔になった。
「芙未香さんは明るいからモテていいなあ」

 とぼやくと、
「違うの! 私だって離婚直後は落ち込んでて、泣き暮らしてたよ。ううん、離婚を切り出されたころが一番暗かったかな。でもね“彼”がいたから、私、明るくなれたんだよ。彼のおかげで、私、変われたの。そうじゃなきゃ今ごろ私、スーパーのレジ係やってたと思う」

 スーパーのレジ!?

 唐突にその単語が出てきてびっくりした。
「私には何もできないと思ってたし、スーパーのレジって離婚した人がやる仕事ってイメージがあったから」

 と芙未香さんは言った。

 実際私の周囲にも離婚してスーパーのレジを始めた女性がいるし、映画『帰郷』でも『いつか読書する日』でも、離婚した女性がスーパーのレジをやっているシーンがある。いつ誰が作ったイメージなのかはわからないけれど、離婚した女性=スーパーのレジ係、というイメージが定着していたことを、その時私は初めて知った。

 私自身は高校の三年間をスーパーのレジのバイトで過ごしたせいで、スーパーのレジにいるのは離婚女性ばかりではないということをよく知っているので、芙未香さんの口からその言葉が出てくるまで、気づかなかった(「ネットサークルの人」参照)。
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