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医療否定本の嘘
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くらし
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すべての医療にはリスクとベネフィットがある

『医療否定本の嘘』
[著]勝俣範之 [発行]扶桑社


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 がんは、「がんもどき」と「本物のがん」の2つに分けられる。「がんもどき」は放っておいても進行しないので、治療は不要。「本物のがん」は転移しているがんであり、積極的治療は効果がないので必要ない――。


 これが「放置療法」の基本です。「放置療法」はかなり極端な主張ですが、過剰な医療は避けるべきという警告であるなら、その点は評価できると思います。


 近藤医師の主張は、医学論文を利用し、一部は正しいことを言っています。たとえば、日本は手術偏重主義のところがあり、放射線治療が少ないとか、一部の進行がんの患者さんに対して抗がん剤を使い過ぎている、といった点。


 問題なのは、自説に誘導するために一部の正しいことを極端に誇張することです


 たとえば、放置療法が勧められる理由の一つとして、近藤医師は、「がんは痛まない」と言います。しかし、神経の近くにがんができれば、当然痛みます。神経が近くになくても、がんが大きくなって臓器を障害するといろいろな苦しい症状が出ます。だから、「がんは痛まない」というのは、大きな誤解を招く誇張です。


 こうした偏った情報による表現は、医学者、科学者の態度として、間違った行為です。すべての医療行為には、絶対というものはありません。100%安全で、100%効果のある治療法も存在しないのです。風邪薬一つとっても、その効果は絶対ではありませんし、また重篤な副作用も存在するのです。


 すべての医療には、リスクとベネフィット(利点)があり、そのバランスを考慮し、個々の患者さんに適用していくのが正しい医療のあり方だと思います。リスクにばかり目を向けてすべての医療を否定するのも間違いですし、リスクをまったく考慮せずに医療を使うのも間違いです。


 がん医療も同様で、がんの三大療法といわれる手術、放射線、抗がん剤には、すべてリスクがあります。治療効果というベネフィットとのバランスを考えつつ、患者さんと相談しながら、最善の医療を進めていく必要があります。


手術でがんが散らばるリスクより、手遅れになるリスク



 リスクとベネフィットといえば、近藤医師は、生検や手術によって、「がんが散らばる」リスクがあるとも言っています。ただでさえ怖いのに、「がんが散らばる」なんて言われれば、なおさら避けたくなるでしょう。


 生検とは、細い針で、腫瘍の一部を採って、組織診断をすること。確かに針生検をしたときに皮膚の一部にがん細胞を散らばらせてしまって、後に皮膚に再発したという報告が乳がんであります(*1)


 これらの文献では、生検を受けた患者さんの5~11%に再発があったということですが、実際の臨床の場では、外科医は生検した部分をなるべく手術範囲に含めるように切除し、乳房温存手術の場合は、手術後に放射線治療をするので、問題になることはまずありません。また、たとえ再発したとしても、このようながん細胞は増殖能力が低いため、切除すれば治ります。


 では、手術でがん細胞が散らばるということはあるのでしょうか?


 これも一部にはあります。たとえば、卵巣がんでは、手術中に腫瘍が破裂し、腫瘍が腹腔内に散らばってしまうと、予後が悪くなるというデータがあります(*2)。そのため、外科医は細心の注意を払って腫瘍が破裂しないように手術をするのです。


 このように生検や手術によって、「がんが散らばる」ことは一部とはいえ存在するのは確かですが、だからといって、生検をやめたり、手術をやめたりすることはありません。生検をしないでおくことは、がんの確定診断をしないということ。やらないことによるデメリットのほうが大きいからです。


 手術にしても、一部にがんが散らばってしまうリスクはありますし、術後の合併症や麻酔による事故を引き起こすリスクもありますが、それでも手術をおこなうのは、それを上回るメリットがあるからです。


正しい情報は伝えられたのか?



 5ミリで見つかった早期乳がんを放置して、骨と肺と肝臓に転移し、最初にがんが見つかってから18年後に、58歳で亡くなった女性の最後の2年間が、『いのちを楽しむ-容子とがんの2年間-』というドキュメンタリー映画になっています。


 彼女は、最初にがんが見つかったときに近藤医師のところに相談に行き、「まだ小さいから様子をみよう」と言われ、乳がんを放置することを決めたそうです。


 でも、6年後には5ミリだった乳がんが4・5センチほどになって、皮膚を突き破る恐れがあったため温存手術を、その9年後には骨と肺と肝臓に転移して放射線治療を受けることに。すでに亡くなった方の治療について、とやかく言うのは大変失礼ですが、私だけではなく、ほとんどの医師は「5ミリで見つかった段階で手術を受けていれば……」と思うはずです。


 乳がんのステージ1の5年生存率は90%以上。乳房温存術という体に負担の少ない手術で、9割以上の確率で治っていたと考えられます。


 この患者さんは、がんを放置し、がんが大きくなってから温存手術、転移してから放射線治療を受け、結果的に、がんを治すことができずがんと最期まで闘わなければならなくなりましたが、そのことを十分に予測・承知した上での選択であったのか、疑問が残ります。


 そもそも近藤医師は、自覚症状のない早期がんはほとんど「がんもどき」といつも言っています。この方の場合、例外的に「本物のがん」だったということでしょうか。


 ドキュメンタリー映画のなかの「容子さん」からは、がんになったからといって「がん患者」として生きるのではなく、自由に生きたいという意志を感じます。だからご自身が選んだ治療に十分に納得されていたでしょう。


 ただ、近藤医師の本を読んでがんについて勉強し、近藤医師を主治医に持って近藤医師から話を聞くなかで、正しい情報がきちんと伝えられた上での自己決定だったのでしょうか。


 医師は正しい情報を患者さんに説明する義務があります。偏った情報しか伝えられていなかったのだとすると、医師の説明義務違反にあたると思います。




  *1 Breast J. 2006 May-Jun; 12(3): 194-8、Acta Radiol 2000; 41: 435-40.


  *2 Obstet Gynecol. 1994; 84(1): 1.

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