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(2021/11/26 追記)

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許せないという病
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生き方・教養
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はじめに

『許せないという病』
[著]片田珠美 [発行]扶桑社


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愛と憎しみのアンビバレンス


「許せない」という病についての本を書こうと思ったのは、私自身が他人を「許せない」ことでずっと悩んできたからだ。しかも、私にとってどうしても許せない相手は母と祖母だった。


 母が教師だったこともあって、私を妊娠していることがわかってから、両親は父方の祖父母と同居するようになったのだが、母と祖母の嫁姑関係はすさまじかった。


 そのせいか、祖母は、ことあるごとに「60歳になったらお寺参りをするのを楽しみにしていたのに、孫の子守りなんかさせられて」と愚痴をこぼし、私の中に母と似ている面を見出すたびに罵倒した。今から思えば、心理的虐待以外の何物でもない。


 母のほうも、子供ができたために姑と同居する選択をせざるを得ず、姑との確執に悩まされるようになったわけだから、(うっ)(ぷん)が溜まっていたのだろうか。突然、理由もなく怒りだすことがしょっちゅうあった。


 しかも、母には、自分の実家を頼りにくい事情もあったようだ。母方の“祖母”は、母の継母(ままはは)だったのである。この“祖母”は優しい人で、私は母の実家に行くのを楽しみにしていたのだが、あるとき実は母の継母なのだと父方の祖母から聞かされた。

「ままはは」というのは漫画やドラマでしか見たことがなく、意地悪なイメージがあったので、「あの優しいおばあちゃんが……」と意外な感じがして、それからは以前のように無邪気ではいられなくなってしまった。


 両親が「あえて」子供に伏せておいた事実を父方の祖母が暴露したのは、私が母方の“祖母”を慕っていたことへのやっかみのせいかもしれない。あるいは、憎き嫁をおとしめるためなら何でもするという、父方の祖母の意地悪な面が出てしまったのかもしれない。


 いずれにせよ、父方の祖母の残酷さには、幼い頃から悩まされてきた。私には妹しかいないので、祖母が母を「跡継ぎの男の子を産めなかった」と責めたこともあるのだが、そばで聞いていて、私は生まれてきてはいけなかったのかと感じたものだ。


 しかも、この父方の祖母は、罪悪感をかき立てる達人だった。私の心に「申し訳ない」という感情を呼び起こすことによって、うまく支配しようとしたのである。


 赤ん坊の頃、私は股関節脱臼でかなり長期間ギプスをしていたらしい。ギプスごと抱っこした祖母は、非常に重く感じたそうだ。そして、祖母はそれが原因で胃下垂になったと、成長した私に何度も語った。

「私が体を壊したのはお前のせいだ」。そう繰り返し聞かされたことで、私は祖母を捨ててはいけないという思いにとらわれ続けた。同時に、祖母に支配されている息苦しさを、ずっと感じていた。


 とくに、両親と妹、そして祖父母と一緒に旅行をした際に、私が生理になったときのことは忘れられない。祖母は私に向かって「私の言うことを聞かないから、生理が始まったんだ」と言い放ったのだ。


 この言葉に象徴されるように、祖母は私を常に支配しようとしていた。自分の言う通りにしていればいい。言う通りにしなかったら、きっと悪いことが起きる。それが、祖母の素朴な発想だったように思われる。


 もっとも、祖母は私のことを愛していなかったわけではない。いや、むしろ、私を溺愛していた。というのも、祖母は、若い頃、娘を一人、百日咳で亡くしていたからだ。当時は昭和初期で、抗生物質も点滴もなく、乳幼児の死亡率が今よりずっと高い時代だったので、その子は看病のかいもなく、赤ん坊のうちに亡くなってしまったらしい。祖母はそのことを、ずっと悔やんでいた。


 それから何十年も経って実家の墓を改修することになったとき、祖母はその娘の墓を、特別に作りたいと主張し、家族が入る墓の横に小さな墓を作らせた。それほどまでに、祖母は亡くなった娘に愛着とこだわりを抱いていたのである。


 私が生まれたとき、祖母は「この子は、あの娘の生まれ変わりだ」と思ったそうだ。だから、私に注いでくれた愛情はものすごいものだった。


 祖母からすれば、せっかく大切に育てた私が、成長するにしたがって祖母から離れていくことは、寂しく、つらいことだったのかもしれない。しかも、母との確執があったからこそ、私を罵倒するような言葉を吐いたのだろうと頭では理解できるのだが、それでも許せない。


 また、私は祖母に憎しみだけを抱いているわけではなく、私を大切に育ててくれたことに対してもちろん感謝しているし、愛情も抱いている。つまり、愛と憎しみの「アンビバレンス(両価性)」の中で、どうしても許せないという思いを抱えて、悩んできたのである。


私は母の幸せを実現する道具じゃない



 一方、母のほうも、姑を見返すには、娘の教育で成功をつかむしかないと思ったのか、教育熱心で、自分が一番いいと信じる道に私を進ませようとした。私の希望などお構いなしに。


 私は子供の頃から本が好きで、将来は作家か新聞記者になりたいと考えていた。そこで、大学進学の際に文学部に進みたいという希望を両親に伝えた。ところが、母は猛烈に反対した。医学部に行き、医者を目指すよう強硬に主張したのだ。表向きの理由は、「そのほうがあなたのためになる」というものだった。しかし、母の隠された真意は別のところにあったようだ。


 一つ目の理由は、「利得の追求」である。母にとって、私が医者になることには大きなメリットがあった。私が生まれ育った田舎でステータスの高い仕事といえば、公務員か医者くらいだったので、娘が医者になれば、母の虚栄心は大いに満たされると思ったのだろう。また、私がいずれ田舎に戻って開業すれば、娘や孫に囲まれて、経済的にも不自由のない暮らしができると考えたのかもしれない。


 母が私を医学部に進ませたいと希望したもう一つの理由は、「敗者復活」である。高校時代の母は成績優秀だったそうで、卒業後は広島大学教育学部に進み、長い間、教師として働いていた。それに対して、高校時代の成績が母より悪かった同級生のうち、一人が大阪大学医学部に、もう一人はお茶の水女子大学に進んだのだという。


 母は幼い頃に実母を亡くしており、継母に育てられたため、県外の大学に進学するために必要な学費を出してもらえなかったという事情もあったらしいのだが、自分より成績が下だった同級生が自分よりレベルの高い大学に進んだことは、母にとっては耐えがたかったようだ。その敗北感を、母は娘の大学進学によって払拭しようとしたわけである。


 この事実を知ったのは、私が大阪大学医学部に、そして私の妹がお茶の水女子大学文学部に進んだあとのことだ。そのとき、私は心の底からぞっとした。母が自分の敗北感を払拭するために、私と妹の進路をねじ曲げようとしているように感じたからだ。


 私は無事医学部を卒業して医者になったが、モリエールの喜劇さながらに「いやいやながら医者にされ」という感じで、若い頃は随分悩んだ。それでも、母はまったく気づかず、私を医学部に進ませたのは正しい選択だったと、ずっと信じていたようだ。


 だから、私が医者になってから数年後に、見合い結婚して地元で開業するように、母は勧めた。私は断ったが、私の拒否をなかなか受け入れられなかったのか、母はその後もことあるごとに「田舎に帰って開業すればいいのに」と愚痴をこぼし続けた。


 あとで聞いた話だが、母は私に内緒で、クリニックを開業するための土地を探すことまでやっていたようだ。その話を聞いてぞっとした。母が、私を母の幸せを実現するための道具とみなしているように感じたからだ。それ以来、私はできるだけ母と距離を置くようにしているが、全然会わないというわけにはいかない。そのたびに、愛と憎しみが入り交じった複雑な感情を覚えるし、許せないという思いにもさいなまれる。


家族であっても「許せない」



 というわけで、私自身、母も祖母もいまだに許すことができない。祖母が亡くなってから20年以上経つのに、いまだに子供の頃に祖母から吐かれた暴言が耳の中でよみがえり、ハッとすることもある。


 私のように、愛しいはずの家族であっても許せないということは、ほかの方にもあるのではないか。


 もちろん、許そうと努力することは大切だ。向こうも、苦悩なり不幸なりを背負っていて、そうするしかなかったのかもしれないのだから。それでも、どうしても許せない場合もあるだろう。


 そういう場合、どうすればいいのか、自分自身の経験を振り返りながら書いたのが本書である。


 まず第1章で、他人を許せなくて悩んでいる人たちの事例を紹介する。次に第2章で、なぜ「許せない」のかについて分析する。さらに第3章で、「許せない」を引きずる人の特徴を取り上げて、精神医学的に考察する。


 後半は、処方箋である。第4章では、「許せない」という病から抜け出すための四つのステップを紹介する。そして、最終章では、なかなか他人を「許せない」自分を許すにはどうすればいいのか述べる。


 あなたが、「許せない」という病に悩んでいたら、ぜひお読みいただきたい。

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