『戦後アウトローの死に様』
[著]山平重樹
[発行]_双葉社
東アジア反日武装戦線幹部で「大地の牙」リーダーの斉藤和が東京都江東区亀戸のマンション自室で逮捕されたのは、昭和五十年五月十九日午前八時二十三分のことである。
そのとき斉藤は、五カ月ほど前から同棲中の同志・浴田由紀子ともども就寝中だった。この日は勤めていた二人が同棲して初めての共通の休日で、一緒に浅草に遊びに行く予定であったという。
ぐっすり眠っていた二人は、突如侵入してきた数人の男たちから布団を取り囲まれ、
「起きろ!」「わかってるな!」
と怒鳴られ、叩き起こされたのだった。
二人はすぐに彼らを刑事と知って、服を着替えるとともに、浴田がすばやくコタツ台の上のメガネとカプセルを取って斉藤に手渡した。彼女のほうがコタツ台に近かったからだ。寝る前に二人のメガネとカプセルをコタツ台の上に並べて置くのは、毎日の習慣になっていた。
その飲み薬用のカプセルこそ青酸カリ入りで、二人だけでなく、「大地の牙」「さそり」「狼」の三グループから成る東アジア反日武装戦線のメンバー全員がペンダントにして常時身につけていた自決用の代物であった。