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インスタントリア充 人生に「いいね」をつける21の方法
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生き方・教養
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音痴で楽器ができなくてもライブに出たい

『インスタントリア充 人生に「いいね」をつける21の方法』
[著]地主恵亮 [発行]扶桑社


読了目安時間:7分
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 バンドはカッコいい。ギターやベース、ボーカルなどが作り出す音に、ライブ会場は震える。オシャレでカッコいい、それがバンドのライブだ。音痴で楽器ができない人はライブのステージに立てないのだろうか。司会のような立ち位置ではなく、バンドメンバーとしてライブのステージに立ちたい。


インスタント★リア充





 バンドはカッコいい



 夏が近づけばフェスの話を聞くようになる。数万人がその音に熱狂する。人は音楽が好きなのだ。音楽番組には熱唱するバンドが映る。実にカッコいい。音楽は多くの人を感動させるものなのだ。バンドを構成するのは例外も多々あるが、基本的には、「ギター」「ベース」「ドラム」「ボーカル」である。楽器とボーカルを兼任することも珍しくない。そのほかにも「キーボード」やバンドによっては「トランペット」なども存在する。


 ライブを見に行くと、その帰り道で心が騒ぐ。ただ、一度も「やってみたい」と思ったことがない。身近にバンドを組んでいる人がいたけれど、「俺もやってみたい」と考えたことがない。楽譜すら読めないからだ。点数の出るカラオケに行けば33点という、高校のテストなら赤点のような点数が表示されたこともある。


 電車に乗っていると、ギターケースを背負った高校生を見かける。カッコいい。学校では絶対にモテるだろう。高校生だけの話ではなく、まだ売れていないバンドだって、音に埋もれて生きるそのさまはカッコよく、モテること間違いなしだ。では、音痴で楽器もできない私はどうすればいいのか?


 世の中には、音痴で楽器もできない人もいるのだ。その存在に光を与えなければならない。というか、光を与えてもらわなければならない。私は楽譜すら読めない。



 いいポジションがあった



 バンドによっては、ボーカルの後ろ、さらにギターよりも後ろに、パソコン担当の人がいる場合がある。何をしているか知らないけれど、パソコンの前に立っている人がいるのだ。


 昔は若干オタク的なイメージがあったパソコンだが、時間が経つにつれ、一般的なものになった。カフェに行けば、パソコンを開いている人がいて、むしろ「カッコいい」「意識が高い」という、昔とは違うイメージさえ持たれる。そして、パソコンはバンド業界にも進出した。


 彼らはヘッドフォンをして、リズムに乗っているが、歌うことはなく、楽器も弾かない。音楽に疎い私には彼らが何をしているのかわからない。バンドによっては、パソコン担当がいないこともあるので、重要性がイマイチつかめない。同時に「いなくてもバンドは成立するのではないか」という、音痴で楽器もできない私にかすかな希望をもたらした。


 パソコン担当になれば、私でもバンドのステージに立てる。しかし、ステージに立つまでの道のりは険しそうだ。みんなマジメにアーティスト活動をしているのだ。なんの努力もしないで、オイシいところだけを持っていこうとする私に協力してくれる人はいないのだ。


 知り合いを通して何組かのバンドに、この夢を叶えてもらえないかとお願いをしたが、「うちらは真面目に活動しているから」と断られる。もっともである。彼らにとって日々の集大成といえるライブのステージに、音楽のわからない男が、パソコンを持って立っていたら嫌だろう。


 私が原稿を書いている横に、ギターを持っている男が立っていたら嫌なのと同じだ。全然原稿に集中できない。ちょっと目が合うたびに軽く会釈して、首が痛くなりそうだ。


 そこで、唯一の遠い知り合いであるミュージシャンの上西さんにFBでメッセージを一方的に送り、泣きつき、タグチハナさんというアーティストを紹介していただいた。


 上西さんは嫌な顔をすることなく(見えないが)私のために動いてくれた。最初はパソコン担当がいそうなバンドを紹介してください、とお願いしていたのだけれど、女子高生アーティストがいるとのことで、「むしろそちらで」と自分に正直に頭を下げた。


 バンドにいるパソコンの人を「マニピュレーター」というそうだ。上西さんが教えてくれた。その場で音をミックスしたり、打ち込みをしたりする。その人たちがもれなくMacなのが疑問だったが、カッコいいからじゃない? とのことだった。


 Windowsだと仕事の匂いが強くなる気がする。Windowsがオシャレじゃないと言っているわけではない。ただ、ExcelやWordをいじっている感じがしてくるのだ。実際は音をミックスしていても、セルの統合とかしている感じがするのだ。彼らにとってはMacが重要なポイントなのを理解できた。


 ヘッドフォンがあるとそれっぽい、と教えてもらったので当日に買った。バンドメンバーになるためには、Macのパソコンとヘッドフォンが大切なのだ。あと、なんとなくパーカが似合う気がしたので、おニューのパーカを着た。自慢のグレーのパーカだ。


 紹介していただいたのは「タグチハナ」さんという、当時はまだ女子高生の新進気鋭のアーティストだった。初めて会った時は、ギターケースを背負っている彼女の体が小さかったので、ギターケースが歩いているように見えた。


 本番前にはリハーサルが行われる。タグチハナさんはもっとリバーブ(?)ください、みたいなことを言っているが、私は特にすることがない。だってパソコンいじるだけだもの。唯一のリクエストは「パソコンを置く台ありますか?」だった。何をリハーサルしていいのかわからない。リハーサルすべきは、持っていたMacBook Airが無事にネットにつながるかである。もっともこれはステージ上でやらなくても、確認できる。私のリハーサルは暇としかいいようがないものだったが、ネットには無事につながったので、Yahoo!ニュースを見て、時間を潰すことができた。


 リハーサルが終わり、しばらくすると客入れが始まる。広いライブハウスではなかったけれど、そこを埋める十分な人数が演奏が始まるのを待っている。本番が近づくとタグチさんの顔からは気合いというか、緊張のようなものを感じた。私からはそういうものが感じられない。それはなぜか。家でパソコンをいじっている時と変わらないからだ。



 本番が始まった



 ただ、いざステージに上がると緊張した。赤や青の光で照らされ、目の前には視線を上げれば、観客がいる。視線を下げればパソコンの画面があるけれど、こんな状況でYahoo!ニュースを見たことなど一度もない。


 しかし、パソコンの前にいればバンドメンバーのように見える。持っててよかった、MacBook Airだ。キチンとしたアーティストの横でパソコンをいじっていたら、それはもうバンドメンバーなのだ。誰もが私をバンドメンバーとして認識している。


 大きな問題もあった。私の横で歌っている高校生アーティストは、自分で作詞作曲をして、基本的には弾き語りである。透き通るような歌声で、とてもいい曲を歌う。


 そう、弾き語りなのだ。音をミックスするどころではない。弾き語りなのだ。パソコンの入る余地はないのだ。


 タグチハナさんの歌は本当に素晴らしい。高校生というから今後、さらに成長していくだろう。大好きな彼女の曲を隣で聞けるというのは嬉しいことだ。ただ、ヘッドフォンのせいでよく聞こえない。ヘッドフォンが邪魔だ。さらに、そのヘッドフォンはどこにもつながっていない。


 私にとって最大のハイライトは、MCでタグチハナさんがマニピュレーターの地主さんです、と紹介してくれた時だ。照れながら手を上げる。拍手が起こる。快感である。私はバンドメンバーなのだ。タグチハナさんと一緒に、この会場に感動の渦を作っているのだ。


エピローグ………タグチハナさんの出番は30分で、私もフルに参加した。どこにもつながっていないパソコンの前に立って。最初こそお客さんを騙せたようだが、やがて「あいつ何もしてないぞ」とバレたようだった。そりゃ、気がつく。でも、快感だった。


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