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パチンコ裏物語 店長大暴露編
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エンタメ
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1 店長流血事件

『パチンコ裏物語 店長大暴露編』
[著]阪井すみお [発行]彩図社


読了目安時間:7分
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 パチンコ屋で働いていると、日常生活ではなかなか起こりえないであろう痛い話を耳にしたり目にすることがある。

「血湧き肉躍る」などと言うが、パチンコ屋では「血まみれ店長、肉はじける」肉体的痛みを伴う事件に遭遇することも少なくない。


 パチンコ店長の〈痛い事件〉はブロック塀に押しつぶされた店長の他にも、サイドブレーキを引き忘れて自分の車に轢き殺されそうになった店長、店内ポスター貼りの最中に脚立の2段目から落ちて骨折した店長、釘調整ではなく自分の指をハンマーで調整した店長、深夜に駐車場を走り回っていた中型犬に手を噛まれて深手を負った店長など、思い出せば思い出すほど「これらは全て事故に見せかけた客の呪いなのか?」と背筋に冷たいものが流れてくる事件が多いのである。


 そのような血も凍る事件の中から「これは痛すぎではありませんか」と言う1本、五井店長事件を紹介したい。

(注)残酷描写の苦手な方、食事中の方は要注意である。



 パチンコ台に玉を送る装置を「玉還元機」もしくは「補給装置」と言う。


 還元機は「全島一括方式」と「独立島方式」に分かれ、最近は島ごとに還元機を設置しているケースが多い。


 とある店で勤務していた時の話である。昼過ぎに客から「玉が出ない」という苦情を受けた。台の上部ランプを確認すると補給玉切れを表示するランプが点灯している。


 島上部の幕板を開けて確認すると補給用の玉が全然流れていない。これは緊急事態である。


 この店では客の打った玉をホールの1カ所(地下の玉場と呼ばれる場所)に一度集め、玉を磨きながらベルトコンベアで天井裏に送り、天井裏から滑り台を玉が転がり落ちる要領で各島に流れて補給される〈全島一括システム〉を採用していたのだ。


 島単位で設置されているいわゆる〈独立島〉はトラブルが起こってもその島だけで済むが、すべての玉を1カ所に集めるシステムの場合、トラブルが起こると「全島全台一斉に玉が出ない」という最悪の状況になる。


 この時も気が付いた時にはすでに各島の補給玉がゼロの状態で、ホールのあちこちから「玉が出ねぇぞ!」という苦情と呼び出しランプが殺到し始めたのである。


 悪い事は重なるもので丁度この時間は店員たちが昼の食事休憩を取り始めたばかりであり、ホールは2名、フロント1名で300人近い客の対応をしていたのだ。


 店内マイクで「只今、機械トラブルの対応中です。今しばらくお待ちください!」と放送を繰り返したが、「1分1秒は貴重な時間、ぼくは24時間ヒマだけど」という客の対応にてんてこ舞い。


 フロントから緊急呼び出しを受けた店長がワイシャツ姿のまま天井裏に上がり、「俺がベルトコンベアを手で引っ張って回すから何とか修理しろ!」とぼくに指示した。


 コンベアが停止した原因を調べずに、力技で強引にベルトを動かして玉を送るという店長の発言に、「それは危険なのでやめたほうがいいですよ」と忠告したが「このままじゃ埒があかない。とりあえずコンベアを引っ張りながら玉を送るから阪井は早く原因を調べて修理しろ」と繰り返した。


 店長と店員の立場が逆な気もしたが、ぼくがメーカーに原因を問い合わせている間に、店長が汗水流しながら玉を手作業で送る作戦が発動する事となった。


 闇雲にメーカーに電話をする前に「この辺りが怪しい」という目星を付けるべく、電源盤のブレーカーを調べてみると還元機用のブレーカーが落ちていた。


 落ちた原因がブレーカーの不良なのか、コンベアに異常な負荷がかかって止まったのか、はたまた漏電で止まったのか……何が原因なのかわからない。


 どうしたものかと考えていると、連絡を受けた店員たちが昼食の途中でホールに戻ってきた。彼らにホールの対応を任せてメーカーに問い合わせてみたが「一度現場を見てみないと何とも言えない」と呑気な事を言っている。


 進展が見込めそうにないので電話を切り、もう一度、ブレーカーを確認に行くと不思議な現象が起こっていた。落ちていたはずのブレーカーがいつの間にか元に戻っているのである。

「あれ?」と思いながら天井裏を覗くと店長の姿が見えない。ベルトコンベアは正常に動いているではないか。止まっていたはずの玉が正常に流れ始めたのを確認し、メーカーに「よく分からないけど直りました」と連絡をして一件落着。


 しかし、店長はどこへ行ったのだろう? 天井裏から消えた男のミステリーを解明するのも役職者の仕事である。


 監視カメラで確認するも、ホールに店長の姿はない。インカムで店員に尋ねても「知りません」と言う。ホールにもいない、事務所にもいないとなると──残っているのは便所である。「お疲れさまでした」の一言をかけようと便所のドアに近づいた時、扉の向こうからこの世のものとは思えない唸り声が聞こえてきた。

「うぐあぁぁああ!」


 恐る恐る覗いてみると洗面所に五井店長がいた。

「ぐおおぉぉああぁぁぁああ!」

「店長、なにやってるんですか?」


 店長がべそ顔で振り返りながら「ふんぐうぅ」と大きく息を吸い、「いきなり動いたんだぁ!」と言った。

「何が?」

「コンベアがああぁぁぁ!」


 店長の右手を見ると、80年代に流行ったスプラッター映画張りのえげつない状況になっていた。人差し指、中指、薬指がフランクフルト大に膨れ上がり、それぞれの指にくっ付いていたはずの爪が3月の卒業を待たずにどこか遠くへ旅立っていた。


 店長はありえない方向に曲がっている指を見ながら「きゃああぁぁあ!」と叫び、左手に握った白いボトルに入っている何かを振りかけた。よく見るとそれはセル盤磨きに使う工業用アルコールである。消毒のつもりなのだろう。

「いたいぃいいい、うぎゃああああ!」


 ありえない太さの指が赤色から紫色に変色し、フランクフルトからアメリカンドッグ並みにぷくーーっと膨らんだ。

「ぎゃああああ!!


 劇画調の顔で叫ぶ店長の顔と指を交互に見ながら、これは確実に3本は折れているねと冷静に分析。冷静に吐きそうになった。見れば見るほど不気味な指である。巨大なハンマーを力任せに指先に叩き落としたらあのような指になるんだろうね。


 店長の指がぁ、元気になった息子以上に膨らんだ、ああ、膨らんだぁ♪と、心の中でオリジナルの歌を唄いながら痛い現実の直視を拒んでいたが、徐々にすっぱいものが込み上げてきた。そろそろぼくも限界である。


 乳歯のようにグラグラしている残りの爪を「……これももうだめだ、取っちゃうぞ」とブツブツ言いながら引きちぎろうとしている店長に「とりあえず病院へ行きましょう」と進言。

「……大丈夫……大丈夫……」


 一休さんのように「大丈夫」を繰り返しつつも顔面蒼白、全然大丈夫じゃない状態の店長を車に押し込んで総合病院に連れて行くと、人差し指、中指、薬指の3本が複雑骨折、引き千切れる寸前だったという。

「二度とハンマーが握れなくなるのでは……」とぼくも本人も心配したが、数カ月で回復するらしい。何はともあれ、爪は吹っ飛んだが指がふっ飛ばなかったのは儲けもんであろう。


 爪はいつの日か生えてくるが、指は生えてこない。パチンコで使った金はまた稼げばいいが、使った時間は戻ってこない。それと同じである。違うか。


 結局──なぜブレーカーが落ち、落ちたブレーカーが元に戻っていたのかは未だに謎である。パチンコ屋は謎の多い職場なのである──というオチにしたいのだが、それではブレーカーならぬ、ハートブレイカーの五井店長は納得できないだろう。


 だがしかし今さらパチンコ屋に「納得」を求めても仕方あるまい。従業員のみならず、客も含めてパチンコに関わる多くの人が色んな意味で納得できない状況に納得しながらパチンコ屋に群れているのだ。店長だけが例外ではないのである。違うか。


 参考までに指の値段をネットで調べてみると、1番価値のあるのは「親指」らしい。保険の等級表から換算すると価値比率は小指、薬指、中指、人差し指、親指で、1、1、1、2、3の割合らしい。障害等級から計算すると小指、薬指、中指が83万円、人差し指が166万円、親指で250万円だという。


 五井店長は一歩間違うと人差し指、中指、薬指の3本を吹っ飛ばしていた。金額にして332万円である。この金額が安いのか高いのかは知らないし、五井店長が労災扱いだったのかも疑問? である。


 結局──納得できない事に納得しながら生きる。これがパチンコ屋で学んだあまり意味のない生き方である。合掌。

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