『産業カウンセラーが教える 「つぶれない働き方」の教科書』
[著]吉岡俊介
[発行]彩図社
「こんな会社辞めてやる!」
そう思ったことはありませんか? 組織の中で働いたことがあるひとは、一度は経験があるのではないでしょうか。辞表を叩きつけ、さっそうと会社を後にできたら、さぞかしスカッとするだろうな、などとついつい想像してしまう。
でも多くのひとは先々のことに不安を抱いて、身の振り方を慎重に考えます。勤務年数が長くなればなるほど、踏みとどまるのではないかと思います。
私も同様の経験をしています。もっとも、私の場合は辞めてしまいました。辞表を叩きつけるようにして、長年勤めた大手損害保険会社を47歳で退職しました。「早期退職」という形はとっていたものの、社内のトラブルで理不尽な思いをして、誰にも相談することなく勢いで組織を去ってしまったのです。
それまで会社生活が全てであった私は、退職後は何もする気になれず、椅子に座ったままマンションのベランダからボーッと景色を眺めて過ごしていました。眠ることもできず、食欲もない。椅子から立ち上がる元気も出ない。そのような状態が2週間以上続きました。うつ病に陥り「つぶれて」しまったのです。2001年の夏のことです。
そんな私は今、シニア産業カウンセラーとして、自分のカウンセリングルームを構え、毎日のように悩めるひとたちの相談に応じています。また、いくつかの地方自治体において、主に男性を対象とした「悩み相談窓口」の相談員としての活動や、内閣府の有識者としての取り組みに関わっています。講演やセミナーの開催で全国を飛び回ってもいます。
これらの活動の原動力は、私が退職後のどん底から立ち直った経験を伝え、当時の私と同じような思いをしているひとたちの力になりたいという思いです。
私の言う「つぶれる」というのは、その名の通り、外部から圧力を加えられ、心や身体が押しつぶされたようになり、メンタル面や身体面で不調をきたすことをいいます。この圧力を心理学の用語で「ストレッサー」といいますが、それは私たちが普段「ストレス」と言っているものです。
私のカウンセリングルームはオフィス街に立地していることもあり、そのようなストレスを抱えたビジネスパーソンが多く訪れます。仕事でつぶれそうなひと、つぶれてしまったひとなどがそれぞれの悩みを語ります。中には私の講演やセミナーを聞いて来るひともいて、次のように言われることもあります。
「吉岡さんは会社を辞めることができたけど、私は家族を養っていかねばならず、辞めることができません。今の仕事は嫌だけど、必死になって稼がないといけない。でもこのままではつぶれてしまいます。つぶれない働き方をするためにはどうしたら良いのでしょうか?」
私は会社に勤めていたときは、退職直前までは持ちこたえていたのですが、退職直後に完全につぶれてしまいました。今思えば、つぶれるような働き方を長年続けていたのです。
それにまったく気づいていなかった。
つぶれてしまい、どん底まで落ち込んでしまった当時は、そこからもう這い上がれないのではないかと絶望的な気持ちになりました。でもその後、私は会社を離れたからこそ見えてきた景色に遭遇します。
その景色との出会いにより、今まで自分が働いていた環境のみならず、社会の中の働く現場において、自分を含め、ストレスを抱えてつぶれそうなひとたちの姿とその背景を客観的に見ることができるようになったのです。それは私を回復へと導き、またカウンセラーとしての道を切り拓いてくれました。
先の質問は、多くのひとが抱えている悩みです。この本は、その質問に答えるために、また一層たくさんのひとたちに元気になってもらうために、私の体験を踏まえて書いたものです。
さまざまな具体例を挙げて、「つぶれない働き方」のポイントやヒントを盛り込みました。
本書が少しでもみなさまの快適で豊かな生活の実現にお役に立てることができれば、とても幸いに思います。