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なぜ? シンガポールは成功し続けることができるのか
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政治・社会
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01 シンガポールという国のDNAについて

『なぜ? シンガポールは成功し続けることができるのか』
[著]峯山政宏 [発行]彩図社


読了目安時間:7分
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 シンガポールという国のコンセプトについて知る上で、非常に重要な考え方なので、以下の問題にご解答いただきたい。


「日本に次のAからFの6つの空港しかないと仮定する。あなたは全ての都市をつなぐ航路を開設し、各空港をつなぐ飛行機を準備しろと国土交通大臣官から命令されました。一体、いくつの航路と飛行機が必要でしょうか? 国土交通省の官僚になったと思って解答しなさい」



 この問題は特に対角線の数を求める公式を使わずとも、地道に数え上げれば分かる。答えは15である。


 国交省の官僚であるあなたは、

15の航路を開設し、各航路の往復に必要な15台の飛行機をそろえれば、各都市を毎日往復することができます!」


 と鼻高々に大臣に報告したとする。


 しかし、大臣はあなたの解答に0点をつけて、叩き返すに違いない。「本当に、お前はそれでも日本の国策を遂行する官僚なのか?」と疑問符をつけた上でだ。


 何が大臣の不満だったのだろうか? 別にこの官僚は間違った解答をしていない。小学校の算数の問題だったら、100点満点である。


 それは、より優秀な官僚の答えを見れば分かる。より優秀な官僚であれば、このような提案を大臣にするだろう。

「大臣、私は、ハブ空港である、O空港をさらに建設することを提案します。航路はO空港とAからF空港をつなぐ6航路を開設するだけでいいので、格段に航路数を減らすことができます。さらに、各航路に1台飛行機を備えるだけ、つまり合計6台の飛行機があれば、各都市を全て就航できるようになります」


 実は、O空港というハブ空港を準備することを提案した優秀な官僚というのは、ある1人のアメリカの実業家をモデルにしている。「フェデラル・エクスプレス」創業者のフレデリック・スミスである。


 フレデリック・スミスは、大学生の頃、「アメリカ国内のあらゆる場所に、荷物を一晩で届ける方法」を思いつき、イェール大学の経済学のレポートとして提出した。


 当時、アメリカには何百という空港があり、航空網が発達していたにもかかわらず、小口の荷物はほとんど航空輸送されていなかった。そこで、彼は一計を案じた。アメリカの真ん中にあるテネシー州のメンフィスの空港に荷物を集めて(ハブ)、そこから、全米各都市に送る(スポーク)という方法である。


 このフレデリック・スミスの「ハブ&スポーク」というコンセプトによって、少ない飛行機の数で、全米中の荷物を一晩で届けられるシステムが完成したのだ。この「ハブ」を利用した物流システムのアイデアは、フレデリック・スミスを、「フォーブス」の世界億万長者番付にランクインさせるほどの大富豪に押し上げることになった。


 余談だが、当時のイェール大学の経済学部の教授は、彼の「ハブ」を利用した物流システムのレポートをCランク(日本で言うところの優・良・可の可)と評価したことが、今でも語り草となっている。その教授がCランクをつけた理由は、「実現が非現実的だ」という理由だったという。



 右の事例から、「ハブ」が存在することで、物流コストは激減し(右記の例では飛行機の数)、物流効率が飛躍的に上昇することはお分かりいただけるだろう。シンガポールが、ヨーロッパと中国を結ぶ物流のハブ、自由貿易港として世界史に登場したのは、前章で説明した通りだ。


 さらに、世界地図を見ても分かるように、シンガポールはASEANのちょうど真ん中に位置している。タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、インドネシアなどの各国間の船の輸送は、シンガポールというハブを経由した方が、格段に効率が上がることになる。


 ラッフルズによって、「自由貿易」都市としてのシンガポールが建設された当初、シンガポールの港湾は、今は観光地の名所となっているクラーク・キーとボート・キーにあったが、現在はセントーサ島の対岸である4つのコンテナターミナルにその機能を移転している。


 そのような変化はあるものの、シンガポールはラッフルズの時代から200年の時を経ても、世界の海運の物流ハブであり続けている。これは、シンガポール港が、2010年に上海港に抜かれるまでは、世界第1位の貨物取扱量を誇っていたことでも明らかだろう。


 しかし、シンガポールは世界の海運の「ハブ」として機能しているだけではない。シンガポールという国は、「ハブ」というコンセプトを様々な産業に応用している。


 まず、海運以外でシンガポールが「ハブ」となっている分かりやすい事例は、世界のハブ空港となった、チャンギ国際空港だろう。

「ハブ」としての空港を使用するメリットは以下の通りだ。


(1)空港から空港に直行便を飛ばすよりも、全体のダイヤの数を減らすことができる。

(2)(1)の理由により、より少ない旅客機と搭乗員でサービスを提供でき、コストを削減することができる。



 また、長距離飛行する場合、1台で運行できる距離は制限されるので、ハブ空港を使用しなくても、目的地に到着する前の中継空港が必要となってしまう。それなら始めからハブ空港を使用した方が、前の2点のメリットも享受できてよい、という考え方もある。


 現在、東南アジアで激烈な争いをしているのが、「香港国際空港」と「チャンギ国際空港」だ。



 「香港国際空港」


 年間の旅客数:5600万人、貨物取扱量:400万トン、ターミナル数:2


 「シンガポール・チャンギ国際空港」


 年間の旅客数:5120万人、貨物取扱量:180万トン、ターミナル数:3



 2012年の数字を比較すると、貨物取扱量、年間旅客数ともに、「香港国際空港」に軍配が上がるものの、「チャンギ国際空港」はすでに、「香港国際空港」を追い抜き、東南アジアのナンバー1ハブ空港としての地位を得るため、追撃態勢を整えている。


 バジェット・ターミナルを改修した、ターミナル4を2017年に完成させ、現在のチャンギ空港と同じ規模を持つ巨大なターミナル5を1215年かけて建設することを計画しているのだ。


 さらに、ロンドンの調査会社が発表した「2013年の世界の空港ランキング」(世界中の1210万人の旅行客へ実施したアンケート結果)では、チャンギ国際空港は前年の世界第2位から第1位へと上りつめた。質の面では、東南アジアのナンバー1どころか、世界のナンバー1空港にすでに君臨しているのである。


 しかし、東南アジアナンバー1ハブ空港をかけた熾烈な争いは、「香港国際空港」、「チャンギ国際空港」の2強によるデッドヒートの様相を呈しているように見受けられるが、両者ともに、うかうかしていられない現実もある。


 なぜなら、マレーシアのクアラルンプール国際空港や、タイのスワンナプーム国際空港も東南アジアのナンバー1のハブ空港を狙い、ターミナルの拡張や航空会社の誘致を本格化し始めたからである。


 追うもの、追われるものが生き残りを掛けた争いは今後も続くのであり、シンガポールという国の手腕の見せ所もこれからと言ったところだろう。



《まとめ》


 フレデリック・スミスのハブ&スポークの理論で提唱されているように、物流という観点では、「ハブ」という存在があることで、物流コストが激減し、全体の効率が一気に上がる。そこで、シンガポールは海運の「ハブ」となることで、世界史に登場することに成功した。そして「シンガポール・チャンギ空港」建設以降、空の世界でも世界屈指の「ハブ」となるために、周辺諸国と激烈な争いを繰り広げているのである。

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