『独裁国家に行ってきた』
[著]MASAKI
[発行]彩図社
ベラルーシ人女性との出会い
定刻6時40分に列車は出発した。2010年2月、僕はリトアニアからベラルーシへの国際列車に乗っていた。列車はソ連式の古い車両で、照明はところどころ点かなくなったまま放置された薄暗い蛍光灯が使われている。これから向かうベラルーシという国は「ヨーロッパの北朝鮮」とまで呼ばれ、ソビエト式が大好きなルカシェンコ大統領がロシアとの統合を夢見て仕切っている国だ。聞いたことはあるが、一体この国はどんな国なのだろうか。
朝早い列車だし、そもそもベラルーシに観光に行く人は少ない。車両は空席だらけだったので、僕は指定席の座席を離れ、1人で2席分ゆとりを持って座ろうと移動した。空いているし、問題ないだろう。駅前のキオスクで買ってきたピロシキでも食べよう。
「ニエット(ダメ)~!」
げげっ。ベラルーシ人乗務員のおばさんが僕の席の横に来て怒っている。ここに座っていたらだめなのかと聞いてみると、そうだと言われた。
「ニエニエニエ~(ダメダメダメ)!」
絵に描いたようなぶっきらぼうで無愛想なおばさんだ。ベラルーシの国鉄で働く従業員はこうも冷徹なのか。僕はおばさんの圧力に負けて仕方なく元の席に戻ることにした。
僕の横の席には、彫りの深い二重で大きな眼をしたベラルーシ人の女性が座っていた。僕が戻されてきたのを見て、その女性は微笑を浮かべて話しかけてきた。
「あなた、英語はできる?」
「は、はい……」
「名前は?」
「マサキだよ。あなたは?」
「わたしはポリョ。ベラルーシ人よ」
ラッキーだ。こんな可愛いベラルーシ人女性が偶然にも隣に座っていたなんて、おばさん乗務員に感謝しなければならない。これをきっかけにポリョとベラルーシに着くまで相席が決定した。
「ポリョはリトアニアに旅行に来ていたの?」
「違う、違う。ベラルーシに実家があって家族もいるのよ。学校でリトアニアに来ているけど、休みだしミンスクの実家に帰るんだ。あなたは?」
「世界旅行中だよ。西ヨーロッパや北欧を周遊して、バルト三国を抜けてきたところだよ。やっとこの国のビザが手に入って、ミンスクに観光に行くところ。ベラルーシのビザ、取るのに待たされて大変だったよ」
「そう……。あなた、出身は?」