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裏のハローワーク 交渉・実践編
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エンタメ
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印象などというものは操作でどうにでもなる

『裏のハローワーク 交渉・実践編』
[著]草下シンヤ [発行]彩図社


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● data ●

威 力:★★★★

難易度:★★★

実用度:★★★★




 第一印象というのは、あとあとまで大きな影響を及ぼすものだ。


 これは非常に恐ろしいことである。最初に「薄気味悪い」「信用できそうにない」などとマイナスイメージを抱かれたら、それを払拭するには多大な労力を要するということだからである。


 しかし、そのことを知ってうまく使えば、相手の心を手玉に取ることもできる。前章で紹介した先物取引の営業マンのように、いい印象を与えることができれば、特別な出来事がない限り、その評価が覆ることはないのだ。


 この諸刃の剣である第一印象を自在に使うことができれば、交渉でおおいに役立つことは想像に難くない。


 そしてその扱いに長けているのが裏社会に生きる人々なのだ。



   どうしてヤクザは怖いのか?



 そもそもヤクザがなぜ「怖い」かと言えば、怖そうに見える風貌をしていたり、強圧的な言動をするからだろう。本当に怖いかどうかなど判断のしようがないはずだ。怖そうに見えるから、誰もが「ヤクザは怖い」と思い込んでいる。


 まったく同じ人物だとして、帰宅してから上下のスウェットに着替え、犬を散歩させていたら、誰もヤクザだとは気付いてくれない。街角でぶつかっても「おじさん、気をつけてよ」と逆にたしなめられることもあるかもしれない。


 しかしそれでは商売上がったりである。


 彼らの最大の武器は「暴力」だ。


 いざとなったらヤルという覚悟こそが、彼らを裏社会の首長に位置付けている。しかしそう度々、暴力に訴えてはいられない。組員が懲役にとられれば戦力は落ちるし、その組員に家族がいれば服役中養わなければならず、かなりの費用がかかるからだ。


 江戸時代の武士を想像してもらえばいいだろう。


 彼らは腰に刀を差していたが、よほどのことがない限り、それを抜くことは許されなかった。頭にきたから抜いた、個人的な恨みで抜いたなどということになれば、切腹を命じられることもあったほどである。


 ただし、それが飾りであるかといえば、決してそんなことはなく、いざとなれば抜くという覚悟は誰もが持っていたはずだ。だから武士は特別な存在だったのである。


 ヤクザもそれと同じである。

「ヤル」という覚悟は持っている。だが、できることならそれは避けたい。


 そのためにどうするか?


 戦わずして、相手に引いてもらえばいいのである。


 刀を抜く前に「すいませんでした」と頭を下げてもらえばいいのだ。そのために彼らは怖いと思われなければならないのである。


 そのような観点から見ると、伊丹十三監督の『(※1)ミンボーの女』は実に興味深い。


 映画の内容は民事介入暴力、いわゆる暴力団のゆすりやたかりの手口を明かしたもので、「こうすれば対抗できる」「ヤクザは恐れるものではない」という主張が随所で見られた。


 映画を見て「ヤクザというのも、それほど怖くないかもしれない」という感想を抱いた人もいることだろう。


 しかしヤクザとしては、それでは困るのだ。


 怖がってもらえなくなると、実際に暴力を使わなければならなくなる。


 そういった背景があるのかどうかは分からないが、映画の公開後、(※2)伊丹監督が刃物で襲われ3ヶ月の重症を負うという事件が起こった。


 これで世間の認識はがらりと変わる。

「やっぱりヤクザは怖い」


 そう思ってくれるようになるのだ。一部のヤクザはこの事件でほっとしたかもしれない。


 使うしかないと覚悟していた「暴力」の矛先を収めることができたかもしれないからだ。怖いと思われることで、実際の暴力が減少するという妙なシステムがここに存在するのである。



   「約束しましたよ」の重み



 さて、第一印象に話題を戻そう。


 ここで明かすことはできないが「いわくつき」の人物に取材したときのことだった。


 その人物は約束の時間に5分遅れてやってきた。私はなんとも思っていなかったが、彼はいきなり平謝りしたのである。

「本当に申し訳ない」


 頭まで下げられたので、こちらのほうが困ってしまった。

「いや、いいんですよ。こちらがお願いしたことですから」


 そう言っても、彼は謝罪を繰り返し、しまいにはこんなことまで言い出した。

「私は人との約束は大事にする男です。しかし、今回その約束を破ってしまった。どうすれば罪滅ぼしできるでしょうか?」


 このときは「まったく気にしていませんから」と説明して、ようやく納得してもらったが、「非常に律儀な人だ」という印象が強く刻まれることになった。まさかこの印象があとあと力を持ってくるとは思ってもいなかった。


 数ヶ月後、私は別件で彼に取材を申し込むことになった。


 彼は乗り気ではなかったが、「いくらか出してもらえるなら」という条件でOKを出した。私はほんの謝礼を支払うつもりでこう言った。

「分かりました。ありがとうございます」


 すると彼はドスの効いた低い声でこう言った。

「約束しましたよ」


 その言葉が重くのしかかってきたことは言うまでもない。私の脳裏には約束の時間に5分遅れただけで、あれほどの謝罪を繰り返した彼の姿がこびりついている。もし、謝礼の額を彼が少ないと感じ、「約束が破られた」と思ったら、どんな事態になるのだろうか。


 彼だけを特別扱いするわけにはいかないという理由から、相場に見合った額を取材協力費として渡したが、正直ヒヤヒヤものだった。数日間はいつ「約束と違うじゃないか」という電話がかかってくるんじゃないかと気になっていた。


 実際、そのような電話はなく、彼の「約束しましたよ」という言葉も、そこまで考えてのものではなかったのだろう。


 しかし彼の第一印象が私の精神を圧迫したのはたしかである。



   食い込むときは善人でいけ



 これとは逆に「安心」の印象を売る方法もある。


 ヤクザのシノギのひとつの柱になっているのは、ミカジメ料、俗に言う用心棒代であるが、(※3)暴対法が施行されてから以前のように「ここはウチが仕切っているんだから払ってもらうよ」と高圧的に求めることが難しくなった。そこで相手に「払ってよかった」と思わせるテクニックが必要になってくる。


 にこにこ顔で話してくれたのは、広域組織二次団体所属の坂田氏(42・仮名)である。

「ムリに出せなんて言っちゃうと、へそ曲げられちゃうかもしれないしね。警察に駆け込まれたら厄介だしね。ホント、面倒な世の中になったもんだよ。そこでいろんなやり方を考えなきゃならないよね」


 ターゲットとなる店が飲食店ならば、ちょくちょく客として通う。明らかにヤクザと分かる格好をしておきながら、そこではおとなしくしている。すると最初は警戒していた店長やオーナーも次第に打ち解けてくるものだ。

「そこでまあ、仕事の話はしないわけ。むしろ、俺たちみたいな連中と付き合ったらダメだよ、とでも言っておく。そうすると店長なんかは、この人はいい人なんだと思い込んでくれるんだよ。で、なにかあったら相談ぐらいは乗るよ。そう言って名刺を渡しておくんだ」


 もちろん渡すのは(※4)カタギ用の名刺である。


 一、二週間が過ぎ、切羽詰った声で店長から電話がかかってくる。

「あの……言いにくいのですが、うちの店で揉め事がありまして、どうすればいいかと……」

「どういうこと?」

「なんというか、その……坂田さんとご同業の方々が……」


 要するにどこかのヤクザが暴れているということだ。

「すぐいくから待っとけ」


 そう言って坂田氏は店に駆けつけ、

「X組の坂田だ。ここは俺が面倒見てんだ。それを知ってやってんのか!」


 迫力のある啖呵を切る。


 一触即発の状態ではあるが、暴れていた連中は捨て台詞を吐いて帰っていく。その後、店長は米つきバッタのように頭を下げて坂田氏に感謝することになる。

「いや、今回はいいんだよ。俺とあんたとの付き合いだしな。でも、毎回、こんなことがあると困っちまうな。今回はうまく収まったからいいけど、(※5)看板出す以上、俺の手に余ることになるかもしれない。せっかくいい店で残念だけど、ここにはもうこれねえな。俺がくることで余計に迷惑をかけることにもなるしな」


 そうとでも言えば、向こうのほうから、

「この店を守っていただけませんか?」


 声がかかる。

「でも、それだと仕事になっちまうぜ」

「それでもお願いします」

「そこまで言われたら断れねえな。乗りかかった船だ。やるよ。俺に任せてくれ」


 こうして店は坂田氏の息のかかった絵画のリース会社から絵を借りることになった。


 賢明な読者は察しがついていることと思うが、坂田氏と店で暴れていた連中は身内である。あえて火種を作り、それを派手に消すことで自らの力を印象づけたのだ。しかも最初の「俺たちみたいな連中と付き合ったらダメだよ」というのが効いている。店長は「この人に任せれば安心だ」と思ってくれることだろう。

「(※6)シナリオが大事なんだよ。最初がうまくいけば、その後、いろいろな券買ってもらったり、正月のお飾り買ってもらったり、長い付き合いになるんだからさ」


 さらりと恐ろしいことを言ってのける。

「なんでも言ってきてよ」「相談に乗るよ」


 こんな台詞を聞いたら注意しなければならない。これは決してただの「好意」ではなく「営業」であることを知っておかなければならないのだ。


 こうして見てくると、印象というものがいかにいい加減なものであるか分かる。


 それは「さじ加減ひとつ」でどうにでもなるのだ。


【オモテではこう使え】

実力を計るためにはかなりの時間を要するが、印象は瞬間で決まる。

飛び込み営業で断られ、不快そうな顔をすれば、その印象はいつまでも残る。逆にさわやかに答えれば、誠実そうな印象が伝わり、のちの仕事に結びつかないとも限らない。



   ※1…1992年公開。コミカルなタッチで暴力団の手法を描き、大ヒットを記録。



   ※2…事件後、伊丹監督は毅然とした態度で「私はくじけない。映画で自由を貫く」と宣言した。



   ※3…正式名称は「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」。平成4年3月から施行された。


   大幅に暴力団の行動が規制されたが、中には「警察が暴力団の仕事を奪っただけじゃないか」との見方もある。



   ※4…組織名などの入った名刺を渡し、脅しの道具に使ったりすれば、ただちに警察が出張ってくる。そこで組織名のない(もしくは社名入りの)名刺をカタギ用として持つ。



   ※5…代紋・組織名のこと。これが出てくると個人同士の喧嘩ではなく、組織同士の揉め事に発展する。



   ※6…坂田氏は「学生の頃、好きな女の子を仲間に襲わせてカッコよく助けたら、惚れさせられるんじゃないかって考えなかったか? それと同じようなもんだよ」と笑う。

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