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トラウマ日曜洋画劇場
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エンタメ
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1 午後の曳航 The Sailor Who Fell from Grace with the Sea(1976年、アメリカ・日本)

『トラウマ日曜洋画劇場』
[著]皿井垂 [発行]彩図社


読了目安時間:8分
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(監督)ルイス・ジョン・カルリーノ

(出演)サラ・マイルズ、クリス・クリストファーソン、ジョナサン・カーンほか



 母と息子と船乗り、三者の葛藤を描いた人間ドラマ。舞台を英国デヴォンの港町に変えているものの、三島由紀夫の原作をかなり忠実に映画化している。


 この映画のねちっこいエロオーラには参った。子供の時に見たリビドー系トラウマ作品という意味では、本書で紹介している映画の中でもトップクラスだ。


 ヒロインのアナを演じるイギリス人女優サラ・マイルズは、ずば抜けた美人でも、ため息が出るようなゴージャスボディでもなく、中途半端に年を取っていて……ともかくなんだか生々しい「女」なのである。『チャーリーズ・エンジェル』を見て、ファラ・フォーセット・メジャーズよりジャクリン・スミスの方が好き! なんて言ってた無邪気な十代の僕らのはるか斜め上をいくそのリアルな存在感がえぐい。


 少年たちのリーダーでチーフと呼ばれる男の子の悪魔的な知性と美しさも、浦沢直樹の『MONSTER』に出てくる殺人鬼ヨハンなみに怖い。


 海辺に住む少年でまず思い出すのは、小学生の時に見たNHKドラマ『つぶやき岩の秘密』である。洞窟に通う少年、留守中にだれかが家に入った痕跡……眠れなくなるぐらい怖い思いをしたのをよく覚えている。


 僕にとって『午後の曳航』は『つぶやき岩の秘密』のアダルトバージョンみたいなものだ。海沿いの崖に立つ家、真っ赤な制服を着た少年、繰り返される秘密の集会、大興奮の覗き穴……『つぶやき岩の秘密』にエロをまぶし、堕落した大人の世界に対する憎悪と一緒にかき混ぜると、『午後の曳航』の出来上がりだ。



 大人は知らない少年たちの世界


 映画は息をのむほど美しい海の夕景で始まる。


 日が落ち夜が更けると、ジョナサン(ジョナサン・カーン)は海辺の家をこっそり抜け出し、真っ暗な廃屋に駆けつけた。そこでは少年たちの秘密の集会が開かれている。

「遅いぞ、3番」葉巻を吸いながら、チーフが冷たくなじる。イギリスの昔のカルトドラマ『プリズナー』みたいに、彼らは番号で呼び合っているのだ。


 チーフは父親の秘蔵写真集を家から持ち出してきている。他の少年たちはそれを見て、「うわ、すげえ」と盛り上がる。しかし、ヌード写真に夢中になる少年たちに突然チーフは怒りだし、口汚くののしる。「お前たちは馬鹿か! わからないのか、大人は愚劣なんだ!」。


 集会が終わってジョナサンが家に戻ると、母親のアンが待ち構えていた。夜中に時々家を抜け出していたのがばれていたのだ。


 罰として今後は部屋に外から鍵をかけると言われ、ジョナサンは荒れる。自分の部屋で暴れてベッドをひっくり返し、戸棚の中のものを全部ぶちまけ……おっと、戸棚の奥に穴が開いている。のぞいてみると、隣のアンの寝室が丸見えだ。こうしてジョナサンは折につけ母親の部屋をのぞくようになる。


 アンは港町でアンティークショップをやっているが、夫に先立たれ、現在はジョナサンと2人きりで暮らしている。そんな事情もあって寂しい夜にはチョメチョメ(©山城新伍)しちゃったりするわけだが、ジョナサンはその一部始終をのぞき、あさがおの観察日記をつけるように冷静に記録する。


 ある日、港にベル号という巨大な船が入港し、ジョナサンにせがまれたアンは船を見学させてもらいに行く。2人を案内してくれたジム(クリス・クリストファーソン)は、いかにも船乗りらしいたくましい男だ。ジョナサンはすぐにジムのことが気に入り、理想の男として尊敬するようになるが、アンも女性として惹かれていく。


 船を案内してくれたお礼にと食事に誘ったのをきっかけに、アンはジムと男女の仲になる。2人がベッドでもつれ合う姿をジョナサンはのぞき穴からいつものように観察するが、ジムのことは尊敬しているので悪い気はしない。


 少年グループの集会でジョナサンはジムの素晴らしさを話すが、チーフは「その男も堕落した大人の1人にすぎない」と切り捨てる。「世界の純粋で完璧な秩序」について語るチーフは、「大人はみんなインチキで、モラルなどというものも、そんな大人が自分たちを守るためにでっちあげたインチキなルールだ」と演説する。

「本当に強い人間になれば自由になれる。モラルなんてインチキは超越できる」と説くチーフは、猫に睡眠薬入りのミルクを飲ませ、手術用のメスで腹を裂き、命の中心にある真実=心臓をえぐり出してみせる。


 薬が徐々に効いてきた猫がふらついてへたりこむ場面があるけど、大丈夫なんだろうか? 撮影のために本当に一服盛ったのがバレバレだ。


 終盤、チーフがカモメに火のついた爆竹を食べさせる場面もあるが、彼の歪んだ世界観と大人への憎悪にジョナサンも次第に共鳴していくのがドラマ後半の鍵となる。



 堕落した英雄に死を


 チーフにどんなに批判されても、ジョナサンはジムを慕い続けた。世界の海を航海してきた彼の思い出話に夢中で耳を傾け、彼から様々な海の知恵を教わった。


 クリストファーソンは元々歌手なので、大した演技をするわけでもないのだが、朴訥とした物腰や男くささがジム役にしっくりはまっている。ジムが海辺でジョナサンに六分儀をいじらせてやる場面など、父性がにじんでいて特に好きだ。まあ次の場面では、ジムは六分儀じゃなくて未亡人の体をいじりまくっているわけだが……。


 結局ジムはアンにプロポーズし、2人はジョナサンに結婚するつもりであると告げる。ジムはアンの家に住んでジョナサンの新しい父親になり、船乗りをやめるつもりなのだ。


 ジョナサンはショックを受ける。理想の男、海の英雄だと信じて疑わなかったジムが、船乗りをやめて平凡な父親になってしまうからである。


 さらに、のぞき穴の存在にジムが気づき、アンが半狂乱になるという事件も起こる。うわべの言葉でその場を丸く収めようとするジム。その偽善的な態度は、ジョナサンを決定的に失望させる。


 集会でジョナサンがジムの「堕落」について相談すると、チーフはジムの「処置」を決定する。海の英雄を本来の場所に帰してやるのだ。


 友達がみんな航海のことを聞きたがっているから話してあげてほしいと、ジョナサンはジムを誘い出した。海の見える丘の上では、ナイフや肉切り包丁を隠し持ったチーフたちが待っている。少年たちと一緒に丘の上に座り、チーフに差し出された紅茶を疑うこともなく飲みほしたジムは、いつものように淡々と語り始めた。


 やがて、言葉が途切れがちになり意識がもうろうとしてくるジム。チーフは猫の心臓をえぐり出した時に使ったゴム手袋を、再び取り出す。


 首をうなだれ動かなくなったジムの周りを少年たちが取り囲む。カメラはそのままどんどん引いていき、エンドロール。


 エンディングで流れるテーマ曲が素晴らしく、えげつないストーリーを浄化してしまうほど美しい。


 この映画のサウンドトラックを担当しているのはロバート・アルトマン監督の『M・A・S・H』の挿入歌“Suicide Is Painless”で知られるジョニー・マンデルだが、最後に流れるメインテーマは、ジム役のクリストファーソンの“Seadream”という歌のインストゥルメンタルだ。その旋律は危うげで、はかない。



【注釈】

※サラ・マイルズ

1941年、イギリス生まれ。独立運動が秘かに行われていたアイルランドの寒村を舞台にしたデヴィッド・リーン監督の『ライアンの娘』(1970)で、アカデミー主演女優賞にノミネートされた。

※チャーリーズ・エンジェル

アメリカのABCネットワークで1976年から1981年にかけて放送されたテレビドラマ。日本では、日本テレビ系列で1977年から1982年まで放映された。チャーリー探偵事務所に所属する3人の女性探偵、知性派のサブリナ(ケイト・ジャクソン)、アクティブなジル(ファラ・フォーセット・メジャーズ)、華やかなケリー(ジャクリン・スミス)の活躍を描く。2000年には、キャストを一新した映画版も公開。

※つぶやき岩の秘密

1973年にNHKが夕方の少年ドラマシリーズとして放映した子供向けサスペンス。三浦半島の海岸近くに住む少年が、つぶやき岩という洞窟の謎を巡って事件に巻き込まれる。新田次郎原作。

※プリズナー

パトリック・マクグーハンが主演、製作総指揮などを務めたイギリスのテレビドラマ(全17話)。日本では1969年にNHKで放送された。「村」とは何か? 脱出を阻む「白い球体」の正体は? 謎だらけの物語は、アヴァンギャルドで哲学的というか、意味不明。たぶん権力と個人、自由と抑圧といったものがテーマだったのだろう。2009年にはジム・カヴィーゼルとイアン・マッケラン主演でリメイクされ、AXNミステリーで放送されたが、こちらはなかなかガックリな出来だった。

※M・A・S・H

朝鮮戦争下の駐留米軍を描いた1970年のブラックコメディ。MASHは移動米軍外科病院(Mobile Army Surgical Hospital)の略。主人公は悪ふざけの好きな軍医で、戦争中にも関わらず、部隊内でゲスなイタズラを繰り返す。カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールを受賞。


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