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ガイドブックには載っていない タイ 裏の歩き方
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ルポ・エッセイ
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無縁仏の墓でタイ人に交じって功徳を積む【ラーチャブリー】

『ガイドブックには載っていない タイ 裏の歩き方』
[著]高田胤臣 [発行]彩図社


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~四半世紀ぶりに行われた無縁墓地の整理、そこで見た驚きの光景とは?



 突然で恐縮だが、僕には死体好きという変わった性癖がある。


 実はタイにきたのもそれがきっかけで、2004年から最も死体に近づける救急救命の慈善団体にボランティア登録している。そのため、タイにいる日本人の中でも5指に入るほど、タイの救急救命事情に詳しいと自負している。



 ●身元不明の遺体を回収するボランティアレスキュー


 タイの救急救命活動は国や自治体が運営するものよりも、大小合わせ数十はある民間慈善団体の活動の方が規模が大きく、そして重要な役割を担っている。


 救急救命活動を行う慈善団体は市民の寄付金で成り立っていて、ほかにも貧困層の救済や教育への貢献、国内外の災害支援なども行う。元々は中国系の移民たちがタイの社会に早く溶け込むために、慈善事業を行って受け入れてもらおうとしたことが出発点になっている。今ほど車も多くなく、交通事故が少なかった開設当初の事業は行き倒れの遺体を回収し、埋葬することだった。


 しかし、現在ではこの埋葬活動はあまり行われていない。タイ人は出生届と同時に国民番号が与えられており、デジタルシステムによって今では番号と指紋がすべてデータ化されている。役所や警察のパソコンを操作すればたちどころに家族構成が把握できるので、身元不明の無縁仏になることがほぼなくなったからだ。


 一度、国立チュラロンコーン病院の遺体安置所で身元不明遺体の冷蔵庫を見たことがあるが、入れられていたのはほんの数体だった。各慈善団体所有の墓地では、墓がいっぱいになると整理をするが、20年前は5年くらいの頻度で行っていたものが、現在では満杯になるのに早くても20年以上はかかる。


 そんな中、タイの西部ラーチャブリー県にある濟徳堂という団体の墓地で約24年ぶりに整理が行われることになった。報徳堂も協力要請された関係で、僕もその行事に参加することになった。




 ●シャレコウベをごしごし洗う


 整理の当日、会場の墓地に集合すると、さっそく整理法のレクチャーを受けた。その内容は死体好きの僕でも引いてしまうものだった。


 まず、埋葬された遺体を掘り出し、骨を洗う。そして各部位に分けて埋葬し直す。


 え、骨を洗うの、マジで?


 墓の整理でとりわけ重要なのが、骨を洗う(洗骨)行為だ。なぜ洗うのか、タイでは誰もルーツを知らないので詳細は不明だが、中国などにも死者を悪霊化するのを防ぐために一定の期間埋葬した後、骨を取り出し洗う風習があるそうなので、その影響を受けているのかもしれない。


 蔡文高氏の論文「明・清頃中国の洗骨改葬─『中国地方志民族資料彙編』を中心に、その他の資料の分析から─」によると、中国の浙江省では屍が朽ちていない場合、肉をハサミなどで切り落としたりするそうだ。タイのもまさにそれだった。




 遺体は長期間埋葬されたものは白骨化しているが、埋葬されたばかりだとミイラ化していたり、腐乱した状態で一部が残っている。そうした場合はカッターなどで肉をそぎ落としていかねばならない。


 濟徳堂の墓地にはコンクリートの蓋で閉じられた簡素な墓が団地のように並んでいた。蓋をバールでこじ開ける。肉は土に還ったとはいえ、不快な臭いが溜まっていた。尋常じゃない大きさに育ったムカデなどが這い回る。


 作業は骨と植物、朽ち果てた衣類を分けることから始まる。そして、分けられた骨を洗い場に移し、おばちゃんやおじちゃんたちによってタワシでゴシゴシと洗われる。こんな作業でも談笑が漏れて全然厳かじゃないのはタイ人気質。そもそも墓の整理は善行なので、仏教徒のタイ人にはたいそうな功徳になる。喜ばずにはいられまい。洗い終わると骨を各部位に分け、翌々月の納骨の儀式まで寺院の祭壇に安置される。




 そんななか、墓地の一部が騒然となった。

「あった! あったぞ!」


 1体だけ白骨化せず埋葬時と同じ状態の奇跡の遺体が出たというのだ。数百人のボランティアたちが群がる中、僕も「すいませ~ん、マスコミで~す」と掻き分けてその墓の前に進んだ。

「おいおい……」


 普通に白骨化しているし。こんな狭い中でもデマが伝播するんだから、人間の言葉と感情というのはなんとコントロールされやすいものなのか。


 灼熱の中、別の場所で友人が僕を呼ぶ。そこには釘が刺さったままミイラ化した足首があった。

「なにこれ?」


 これは呪術のようなもので、浮気をしないように刺されたらしい。しかも生前にやられているというが、死の間際に刺されたのだろうか。まさか刺しっぱなしで生きていたわけではあるまい。


 そんな僕らを白人のジャーナリスト風の男が撮影していた。参加者はみな「外人がいる!」なんて、やや羨望の面持ちで遠巻きに眺めている。

「いやいや、ここにも外人がひとりいるんですけど。しかも早朝から……」


 白人ってタイでは得だなと思った。



※民間慈善団体の活動の方が規模が大きく

タイで政府が運営する救急サービスが始まったのは、1993年。僕が所属する中国系の慈善団体「華僑報徳善堂」が創設されたのは1910年なので、民間の方が政府よりも80年も先んじていたことになる。

※各慈善団体所有の墓地

最初にこの事業を始めた報徳堂に倣って、多くの慈善団体が無縁仏用の墓地を郊外に所有している。

※濟徳堂

タイ語ではプラチャーヌグーンと呼ばれる団体。報徳堂をビジネスモデルにしていることから交流があるため、この行事に報徳堂のボランティア隊員も駆り出されたのだ。ちなみに、レスキュー関係の慈善団体で大きいのは報徳堂、義徳堂で、ほかに東部や東北部、北部の大半を牛耳るサワン・グループがある。

※浙江(せっこう)省

東シナ海に面した中国東部の省。この省の黄河沿いの地域から、日本に稲作が伝承された、との説もある。

※コンクリートの蓋で閉じられた簡素な墓

なかにはなぜか蓋が外れているお墓も。夜中にきたらチビってしまうわ!

※浮気をしないように刺された

浮気もなにも、ここにある遺体は無縁仏じゃなかったっけ、と思ったがこの日はアメージングなことがあり過ぎたので、あえてそれ以上は何も聞かなかった。


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