ランチが終わってデスクに戻り、これまで業務で使っていたファイルの整理をしていると、夕方になってようやく新藤さんが戻ってきた。それまで暇そうにしていた同じ部署のスタッフたちは、それを見るや否や、急にソワソワと忙しそうな素振りをし始める。そんな中、新藤さんと最初に目が合ったぼくが、彼から手招きをされて呼び出される。
「カオルくん、ちょっと時間いいですか?」
ぼくは新藤さんに促されるようにして、オフィスの脇にある小さな打ち合わせスペースへと入り込む。そして椅子に座ると、新藤さんから一枚のプロフィールと数枚の写真を見せられるのであった。ぼくは渡された数枚の写真をパラパラとめくりながら、いったい自分が何を求められているのか分からずにキョトンとする。その写真に写っていたのは、パッと見た感じでは高校生ぐらいの、目が大きくてハーフのような顔立ちをした可愛らしい女の子だ。
「これっ、なかなか面白い案件なんですよ。さっき社長に呼び出されてさ。プロフィール受け取ったんですけど、なかなか可愛いでしょ、この子。この春に大学生になったばかりだそうで、まだレッスン段階らしいんだけど、第一印象はどんな感じがします?」
ぼくはこれまでに、こんな質問をされたことがなかった。だから正直、何て答えれば正解なのかが分からなくて躊躇していた。何か答えなければいけない。ぼくはそんな気持ちで、何も浮かびやしないのに、ジィーッとプロフィールを見つめていた。
名前、橘カエデ。年齢十八歳、身長百五十五センチ、趣味ギター演奏……。その他に、これといって特筆すべきような情報は、何一つ書かれていなかった。